日本大百科全書(ニッポニカ) 「タイセイヨウクロマグロ」の意味・わかりやすい解説
タイセイヨウクロマグロ
たいせいようくろまぐろ / 大西洋黒鮪
Atlantic bluefin tuna
[学] Thunnus thynnus
硬骨魚綱スズキ目サバ科に属する海水魚。太平洋に分布するクロマグロとは形態的にきわめて類似しているが、内部形態や遺伝的形質により近年別種とされた。クロマグロと同様にマグロ類のなかではもっとも大形で、全長3メートル、体重400キログラムに達する。胸びれが比較的短く、眼径が小さい。体の背部は暗青色、腹部は銀白色を呈する。
おもな分布域は北大西洋および地中海。分布の北縁はニューファンドランドからノルウェー沿海である。産卵はメキシコ湾で5、6月、地中海で6~8月に行われる。メキシコ湾で孵化(ふか)した稚魚は、北アメリカ大陸沿岸に沿って北へ移動し、その後やや沖合域に分布し季節に応じた南北回遊を行う。地中海で孵化した稚魚は、地中海に広く分散し、ジブラルタル海峡を経て東大西洋に回遊する。若齢魚の移動範囲は狭いが、高齢になるにつれ回遊域が広がり、大西洋の東西で生まれた魚は北大西洋において混合して広く回遊を行うと考えられる。成熟年齢は地中海産卵域で4~5歳とされるのに対し、メキシコ湾での産卵親魚は8~9歳とかなり高齢である。寿命は長く30歳以上と考えられる。
地中海の遺跡では紀元前7000年ごろから本種が漁獲されていたことが示されており、ローマ時代には釣りや地引網の類で漁獲されていたことがわかっている。現在では定置網、竿(さお)釣り、巻網(旋(まき)網)、延縄(はえなわ)など種々の漁法で漁獲される。アメリカ沿岸ではスポーツ・フィッシングの対象ともなっている。肉は濃赤色で刺身やすし種(だね)として好適。地中海では巻網で漁獲した魚を数か月間飼育して出荷する短期養殖が盛んに行われている。
[小倉未基]