改訂新版 世界大百科事典 「タマシギ」の意味・わかりやすい解説
タマシギ (玉鷸)
チドリ目タマシギ科Rostratulidaeの鳥の総称,またはそのうちの1種を指す。この科は1属2種よりなり,1種は旧世界に,他の1種は南アメリカに分布する。2種とも全長24cmくらいで,体型はクイナ類(ツル目)に似ている。くちばしはかなり長く,先が少し下に曲がっている。雌のほうが雄よりもはでな色彩をしていて,体も少し大きい。水田や湿地に雄雌,または小群でいることが多く,長距離の渡りはしない。草の陰に隠れる習性,歩きながら尾を動かすこと,飛ぶときに脚を垂らしぎみにする点なども,クイナ類に似ている。
タマシギRostratula benghalensis(英名painted snipe)は,アフリカからアジアの南部にかけてとオーストラリアおよびタスマニア島に分布する。日本は分布の北限で,福島県以西で繁殖しているが,西日本に多い。雄は頭部から胸は灰褐色,体の上面は灰緑褐色で背には淡黄色の縦線が走り,翼には黄色の内紋が並んでいる。腹は白く,胸側にくい込んだ白色部は背の縦線とつながっている。眼のまわりは白くて目だつ。雌は顔から胸は赤褐色で,体の上面にも褐色みがある。くちばしは薄赤くて基部は黄色。水田,蓮田,休耕田,湿地などに留鳥としてすみ,浅い水の中の少し高い場所やあぜに巣をつくる。繁殖における雌雄の役割は一般の鳥と逆で,雄が巣をつくり,卵を抱き,雛の世話をする。雌はなわばりをもち,数羽の雄と次々に交尾し,交尾した雄の巣に産卵するが,抱卵や育雛(いくすう)はしない。巣と巣との間隔は最短4mの例がある。1腹の卵数は4個,抱卵日数は18~20日。かえった雛は綿羽に包まれ,まもなく巣を離れ,雄の世話を40日くらい受ける。雌は夕方から夜にかけてコーコーコーと鳴き,鳴く前にウッフゥーという声を出すことが多い。
ナンベイタマシギR.semicollaris(英名South America painted snipe)は南アメリカ中部に分布し,一般習性はタマシギに似ているが,1腹の卵数は2個で,この種も一雌多雄の繁殖形式であるのかどうかは現在わかっていない。
執筆者:高野 伸二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報