改訂新版 世界大百科事典 「ミミズ」の意味・わかりやすい解説
ミミズ (蚯蚓)
earthworm
貧毛綱Oligochaeta(貧毛類)に含まれる環形動物の総称。眼がないのでメミエズから転じた名といわれる。蚕(てん)はミミズの意の別字であるが,のちカイコの意に俗用された。畑,牧草地,沼や湖,地下水や少数の種類は海岸にもすみ,地球上に広く分布する。海産のゴカイ類の一種が淡水に入り,その後一部のものが陸上生活に移って大型な貧毛類になったと考えられ,淡水産の種類は一般に小型で原始的な形態をもっている。海産の種類は進化した形態をもっているので,淡水生活に適応したものが二次的に海に入ったものと認められている。
世界で約2700種が知られている。日本産は200~300種とされていたが,最近の研究で異名同種のものが整理されたので,この種類数を下回ることになる。
形態
体は円筒状で細長く,前方に口,後方に肛門が開き,多くのほぼ同じ大きさの環節に分かれている。体長10cm内外,環節数100~200くらいのものが多いが,ミズミミズ科のChaetogaster annandaleiのように体長0.44mm,太さ0.13mmのごく小さいものや,フトミミズ科のMegascolides australisのように体長2.2mにもなる巨大なものがある。頭部には触手や眼などの感覚器官はなく,各体節に細かい剛毛が四つの束になっているか,体の周囲をとりまいて並んでいる。紙の上においたミミズが動くときにガサガサという小さい音をたてるが,これは剛毛が移動するときのすべり止めの役をしているからである。体が成熟すると体の前方の3~12体節が太くなって各節間が不明りょうになり,環帯ができる。ここには生殖口が開くが,環帯のできる場所は科,属によって異なり,また同一属の中で種によっても異なる場合がある。
体壁はクチクラの表皮の下に環状筋があり,その内側に縦走筋が前後に走っている。ミミズが運動するときには両方の筋肉を交互に収縮させて蠕動(ぜんどう)運動をし,さらに剛毛がこの運動を助ける。
消化管は口から咽頭,食道,嗉囊(そのう),砂囊,腸につづくが,腸が大部分を占めて体腔の中を走っている。咽頭の吸入作用によって落葉や台所の廃物など植物質の食物をのみ込み,砂囊の中でいっしょにのみ込んだ土砂とともに食物をすりくだく。そして消化,吸収した後,土砂の糞を肛門からだす。しかし,水生の種類は一般に動物質の小さな餌をとる。呼吸は一般に皮膚呼吸である。表皮下に分布している毛細管が空気中の酸素と血液中の二酸化炭素とを交換している。血液中には形が不同な血球が含まれているが,血色素は血球の中になく,血液中に含まれている血液色素のエリトロクルオリンによって赤い血液になっている。一部にはエラミミズのように体の後方にくし状のえら(鰓)をもっているものもある。循環系は閉鎖血管系で,消化管の背側に背血管,腹側に腹血管が縦に走り,この両方の血管の間を各体節ごとに側血管が連絡している。背血管には弁があり,また収縮性があって血液を前方へ送り,腹血管は前方から後方へ血液を送っている。また前方の側血管の3対ほどがやや太く,強い収縮性があってここをとくに心臓と呼んでいる。
ミミズには眼や,音をきく特別な器官はないが,体の表皮中に散布している感覚細胞で光,振動やにおいなどを敏感に感じとることができる。レンズをもった視細胞は体の前端部に多く,次いで体後部に多い。したがって光に対して体前端部がもっとも敏感で,体中部は感受性がない。排出器としては各体節に1対ずつ存在する腎管のほか,隔膜や咽頭,体壁にも小さな排出器が多数存在する。
生殖
すべて雌雄同体で,精巣は卵巣の前方に位置している。精巣は1~4対あって,第10,11体節にあるものが多く,卵巣は1~2対あって第12,13体節にあるものが多い。また1~5対の受精囊があって,交尾で他の個体から受けた精子を産卵時までここに貯蔵する。生殖口から産みだされた卵は,環帯からだされた膜でおおわれ,受精囊からの精子で受精後,ミミズの頭から抜けて卵包ができる。卵包の形や大きさは種類によって異なるが,両端はとがって木や草の実に似ている。卵包の中は白いタンパク質の粘液で満たされ,その中に受精卵が浮かんでいる。1個の卵包内にフトミミズ類では1~2個,ツリミミズ類では10~60個の卵が入っている。卵包内で発生がすすみ,ミミズの体になって孵化(ふか)する。フツウミミズでは3月下旬に越冬卵から体長3mm,100体節ほどになった幼虫が孵化し,約10週間で環帯ができ,7月ころに交尾して産卵する。秋の11月ころに第2回目の産卵をし,寒くなると死ぬ。一方,シマミミズは3~4年間生きて,条件がよければ一年中産卵する。
生態
陸生の種類は土中にほぼ垂直な穴を掘って,日中はその中で静かにしており,夜になると穴から体の前半を地表にだして地上の餌をのみ込んだり,穴の中に引っぱり込んで食べる。また夕方から朝にかけて頭を下にして穴の底の土を飲み込んでは穴の周囲に小さい糞を積み上げる。一般にミミズは1日に体重の約1/2の量の糞をだすといわれる。外国産の大型な種類では,3~4日で高さ20~25cmの糞塊をつくる。
C.ダーウィンはミミズが40aの地面に1年間で20~40tの糞をだし,これを地面に平らにならすと,10年間で4~5cmの厚さになると計算した。そして地表の厚さ10cmの土は11.5年にミミズの腸の中を全部通過したことになるといっている。糞には植物の成長に必要な栄養素が多く含まれており,とくにカルシウムは約8倍にもなっている。また弱アルカリ性でpHは7.32である。
結局,ミミズは底の土を表面に反転させて土壌内へ空気の流通をよくし,水の浸入を容易にさせる。このために植物が自由に根を広げることができ,成長を助けることになる。また,ミミズ自身が死ぬと分解され,土壌を肥沃にさせる。
他方にはミミズによって大きな被害を受けることもある。イトミミズ,ユリミミズ,エラミミズなどが苗代に群生すると泥が定着しないために種子が土中深く沈んで発芽不能になり,たとえ発芽しても倒伏してしまう。またヒメミミズ科のヒメミミズEnchytraeus buchholziほか2,3の種類は農作物の根や小さな種子などを食べて害を与えるが,とくにカブ,テンサイ,ナタネの被害は著しい。
雨降りのあとなどに路上に多くのミミズが死んでいることがあるが,これは穴の中に雨水が入って外にで,新しい穴を見つける前に日光の紫外線によって麻痺状態になって死ぬのだろうといわれている。
利用
ミミズは昔から魚釣りの餌に用いられてきたのは周知の事実である。また鑑賞魚の餌としてイトミミズやユリミミズが利用される。一時はシマミミズの養殖が盛んになって養殖淡水魚の餌に用いられ,またパック詰にして輸出されていた。牧草地ではウシやウマの糞をミミズに食べさせ,牧草の上の糞を早く分解させるとともに牧草の成長を速めるために牧草地にミミズを導入する試みがなされている。ミミズの糞を利用して農産物を多収した例もある。ミミズは薬用として解熱,利尿,痔,火傷などいろいろな症状に効用があるとされている。そのなかでも,ミミズを生のまま,あるいは乾燥したもの(商品名地竜)を煎じ,毎食間に服用すると,大量に汗がでて熱が下がるので現在でも多くの人によって使用されている。しかし,体質によって発汗しない人もあるという。ニュージーランドのマオリス島の原住民は,ミミズの腸の中の泥をとったあと野菜といっしょに煮て食べる。
種類
日本産の貧毛類は4目11科45属に分けられ,淡水中には7科,陸上には4科,海岸には,これらのなかの2科が生息している。
(1)淡水産 アブラミミズ科Aeolosomatidaeはミミズ類の中でもっとも原始的で,体は小さく,体節の境界が不明確。表皮中に紅色,黄色,緑色などの油滴を含む。ベニアブラミミズほかがある。ミズミミズ科Naididaeは針のような長い剛毛をもつものが多く,一般に無性生殖を行う。テングミミズ,トガリミズミミズなどが含まれる。イトミミズ科Tubificidaeは下水の泥の中で多くの個体が集まって塊状になっている。イトミミズ,ユリミミズ,エラミミズなどが含まれる。オヨギミミズ科Lumbriculidaeはきれいな水につかったコケの間や地下水にすみ,遊泳能力がある。ヤマトオヨギミミズ,キララミミズなどが井戸水から見いだされる。ヒルミミズ科Branchiobdellidaeはザリガニの体表や鰓室(さいしつ)内に付着していて,体の後端に吸盤があり,体には剛毛がない。ヒルのような運動をする。日本では20種ほどあり,ザリガニミミズがもっともふつうに見られる。ナガミミズ科Haplotaxidaeは体幅0.5~2mmで体長5~30cmにもなり,地下水,沼などにすむ。ナガミミズなど3種がある,ヒモミミズ科Glossoscolecidaeは砂囊や受精囊がなく,1属のみ。ヤマトヒモミミズが琵琶湖に産する。
(2)陸産 フトミミズ科Megascolecidaeの体長はふつう5~20cmであるが,シーボルトミミズは長さ45cm,太さ1.5cmにもなる。オーストラリアでは長さ2.2mにもなるMegascolides australisがある。これらの種類は南方系であるため,北海道では全体の1/8ほどの種類が生息するにすぎない。ヒトツモンミミズ,フツウミミズ,ハタケミミズなどの種類が多い。ツリミミズ科Lumbricidaeは中型の種類で,北海道に多く,本州には少ない。シマミミズ,ムラサキツリミミズ,カッショクツリミミズなどがある。ジュズイミミズ科Moniligastridaeは中~大型の種類で,砂囊がじゅずのようになっているのが特徴である。ハッタジュズイミミズは長さが60cmくらいにもなり,金沢市の水田にすんでいる。以前はウナギ釣りの餌に用いられていた。他に数種あるが,いずれも北海道には分布していない。ヒメミミズ科Enchytraeidaeは体長が1cm以下のものが多く,体は透明ないし半透明である。山林や牧草地に1m2に数万~数十万匹も生息する。一部に淡水産と海産のものがある。
(3)海産 フトミミズ類のイソミミズとヒメミミズ類のイソヒメミミズの2種が知られている。イソミミズは体長10cmほどで,本州各地の海岸のくさりかけた海藻や砂利の中にすむ。ハゼ釣りの餌虫によく用いられる。イソヒメミミズPachydrilus nipponicusは体長3cm,幅0.8mmほどで,北海道の海岸に分布し,有機物の多い場所に群生する。
執筆者:今島 実
民俗
メメズまたメミズという地方もある。ミミズが土壌を肥沃にし,縦横に穴を掘って移動するので通気性を高め,農作業上有益であることは古くから知られていた。また近代まで,土中にあって鳴くケラ(螻蛄)の雄の音をミミズが鳴くといい,声を美しくする妙薬として,泥を吐かせたミミズを,酒をもって生きたままのむこともあった。薬用としたのはカブラミミズという,頸部(けいぶ)に白環のあるものである。また,俗に小児の陰部が赤くはれた場合に,これはミミズに小便をかけたため仇をされたものとし,土を掘ってミミズをとらえよく水で洗って放つとはれが治るといった。また,これをすりつぶして腫物に塗り,あるいは煎じて発熱を治癒させるなどの民間療法もある。
執筆者:千葉 徳爾
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