改訂新版 世界大百科事典 「タレンシ族」の意味・わかりやすい解説
タレンシ族 (タレンシぞく)
Tallensi
西アフリカ,ガーナ北部の白ボルタ川と赤ボルタ川にはさまれたサバンナ地帯に住む雑穀栽培を中心とする農耕民。ボルタ語系モレ・グル語族に属する言語を話す。人口は1950年代に約4万人。1930年代にイギリスの社会人類学者M.フォーテスが調査を行い,2冊の民族誌を著した。タレンシ族は政治的にも文化的にも異なる二つの集団,タリスとナモースから成り,全体としての統一はなかったが,タレの土地に住む者としての連帯意識をもち,クラン結合や宗教的協同による密接な相互交流を行っていた。タリス(真のタレ人)は祖先(5人)が大地から出てきたと語られている。首長をもたず,父系クランと,最大リネージから小リネージに至る出自集団の分節体系を有しており,大地祭祀の司祭としての役割を与えられていた。ナモースは北方のマンプルシ王国の滅亡時に移住してきた人々で,タリスとナモースは義兄弟の関係を結んで協力するようになったと伝承されている。
タレンシの社会・政治組織は宗教と密接に結びついており,天と地と祖先の三つが主要な要素であった。天は個人と共同体の運命をつかさどるものとして神格化され,胎児は天から来るといわれた。生まれる前に胎児が天に告げた〈人生計画〉が〈語られた宿命〉として個人の一生を支配すると考えられ,父系祖先がその管理者といわれた。父系祖先は最大リネージ内では個性をもつ社会の成員として祭祀の対象となり,子孫に恩恵を与え,人と神の仲介者としての役割を果たした。最大リネージの外では無名の集合的祖先として〈外の祭殿〉にまつられた。この祭殿は丘の中腹の洞穴にあり,そこで収穫祭が行われた。大地は豊穣(ほうじよう)をもたらす神格としてタリスによってまつられ,土地ごとにその祭祀集団があり,〈種まき祭〉を行った。
執筆者:長島 信弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報