タングステンブロンズ(その他表記)tungsten bronze

改訂新版 世界大百科事典 「タングステンブロンズ」の意味・わかりやすい解説

タングステンブロンズ
tungsten bronze

一般式M IxWO3タングステン酸化物にアルカリ金属その他の金属原子が非化学量論比で侵入した,いわゆる不定比化合物の一つで,外見が金属に似たブロンズ光沢があり,弱い常磁性を示し,しかも電導性があるので,このように呼ばれる。MI=Na,Kなどが代表的なもので,そのほかCu,Agなど多くのものが知られている。NaxWO3x<1)は,Na2WO4,W,WO3をよく混合して真空中もしくは不活性気体中で強熱するか(950℃),WO3とNa2CO3混合物を融解して電解するなどして得られる。xの大きさによって結晶の色は異なり,たとえばx=0.85では黄金黄色,0.75で橙黄色,0.69赤橙色,0.63赤色,0.59紫赤色,0.40赤紫色,0.34紫青色,0.25青色などのように変わる。結晶系は0.26<x<0.93では立方晶系,0.28<x<0.38では正方晶系,六方晶系,単斜晶系など。黄金色のものを450℃程度に熱すると,赤,赤紫色を経て青色となり,冷やすと元に戻る。さらに熱すると灰褐色になって元に戻らない。化学的にはきわめて安定で,通常の酸,アルカリと煮沸しても変化がみられない。フッ化水素酸と混合しても変化しないが,それと煮沸すると灰色に変わって溶ける。水に1ヵ月ほど浸すか,1年くらい空気中にさらすと金属光沢を失うが,希水酸化カリウム水溶液で洗うと元の光沢が得られる。

 KxWO3でもNaと同じようにして得られ,また色その他も同じである。Liもブロンズをつくるが電導性は示さない。NaxKyWO3もあり,いずれも電気良導体である。CuxWO3,AgxWO3などは半導体で,Cu0094WO3は2.0×10⁻2Ω・cm,Ag001WO3は7.2×10⁻2Ω・cmの比抵抗を示す。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「タングステンブロンズ」の解説

タングステンブロンズ
タングステンブロンズ
tungsten bronze

タングステン青銅ともいう.非化学量論的なMxWO3(0 < x ≦ 1)なる組成をもつタングステンの化合物で,青銅に似た外観をもつ.M = Naのものがもっともよく知られている.タングステン酸のナトリウム塩,カリウム塩,アルカリ土類金属塩を水蒸気流中で加熱するか,溶融したタングステン酸塩を電解還元するか,またはタングステン酸ナトリウムを金属ナトリウム,タングステンあるいは亜鉛で還元することにより得られる.x~0.7の黄金色からx~0.3の青紫色まで組成により異なった色を呈し,金属光沢をもち,良導体であるなど金属類似の性質を示す.化学的にはきわめて安定である.水に不溶,フッ化水素酸以外の酸に難溶.アルカリの存在下で酸素により酸化されてタングステン(Ⅵ)酸を生じる.NaxWO3ペロブスカイト型構造をとるが,理想的な組成NaWO3と比較してNaがさまざまな割合で欠けた不完全結晶格子をもつ欠陥構造をとり,Na が1個欠けるごとに五価のタングステンが六価になる.LixWO3は表示材料としての用途がある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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