日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダフニスとクロエ」の意味・わかりやすい解説
ダフニスとクロエ
だふにすとくろえ
Poimenika ta kata Daphnin kai Chloen
古代ギリシアの恋愛小説。2世紀ごろロンゴスが書いたと伝えられる。全四巻。舞台はエーゲ海のレスボス島の田舎(いなか)。山羊(やぎ)飼いに拾われた捨て子の男の子がダフニスの名で育てられ、2年ほどのち、今度は隣の牧場に捨てられていた女の子が羊飼いにみつけられ、クロエと名づけられる。成長した2人は互いに想(おも)いを寄せ、あどけない口づけを交わすようになるが、平和な田園の四季の生活に波瀾(はらん)が起こり、ダフニスが海賊にさらわれそうになったり、戦争で敵がクロエを連れ去ったりする。危うく助けられたクロエに、今度は別の求婚者が現れ、さまざまの危機があるが、結局ダフニスは証拠の品からりっぱな農園主の息子であり、クロエも身分のよい娘であることが判明し、2人はめでたく結ばれる。この作品には古代の物語に共通する要素も多いが、舞台に統一性があり、基調となる牧歌的雰囲気など、他の同時代の小説にはみられない独自の味をもっている。ゲーテをはじめとして近代にも広く愛読され、同名のラベルのバレエ音楽やサン・ピエールの小説『ポールとビルジニー』など、古代の小説のなかでは後世に与えた影響がもっとも大きい。
[引地正俊]