管弦楽法(読み)カンゲンガクホウ(英語表記)orchestration

翻訳|orchestration

デジタル大辞泉 「管弦楽法」の意味・読み・例文・類語

かんげんがく‐ほう〔クワンゲンガクハフ〕【管弦楽法】

各楽器の特徴やそれらの組み合わせ方を考察し、ある楽想や楽曲管弦楽曲として効果的に作曲あるいは編曲する技法。

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改訂新版 世界大百科事典 「管弦楽法」の意味・わかりやすい解説

管弦楽法 (かんげんがくほう)
orchestration

管弦楽を作曲する際に,個々の楽器の特性を考慮しながら音色効果に対する作曲家のイメージを実現する方法,さらにはその技術論をさす。楽器法instrumentationと同義に扱われることもあるが,楽器法が広く個々の楽器の性能とさまざまな音色を効果的に選択,結合する技術一般にかかわるとすれば,管弦楽法orchestrationは歴史的観点から,特に17世紀中期以降の,使用楽器が指定された比較的大規模な管弦楽曲に関して言われる。ただし,もともと鍵盤楽曲や室内楽,歌曲として発想された作品を管弦楽化する場合は編曲といい,一般には管弦楽法の語は用いられない。管弦楽法は,最初の着想の時点から管弦楽としての可能性が顧慮されている場合,あるいは,もとの作品の語法が基本的な変更を受けることなしに管弦楽化される可能性を含む場合にのみ使われる言葉である。

管弦楽の標準編成は,弦5部の合奏に加えて木管群(フルート,オーボエ,クラリネットファゴット),金管群(ホルントランペットトロンボーンチューバ),そして打楽器ティンパニ)から成るが,各楽器群は音質,音量音域,メカニズムなどに応じた役割を与えられている。一般的には弦が中心となって基本声部を確保しながらオーケストラの響きの土台を作り,木管が種々の音色を添え,金管が柔らかなまた鋭い音響を提供し,さらに打楽器が音色とリズムを補強する。木管群が平均2本ずつの場合を2管編成というが,19世紀になって楽器の改良とともに種類も増加し,3管以上の大編成が出現すると,しばしば3管のうち1本が同属の派生楽器(ピッコロ,イングリッシュ・ホルンなど)で代用されたり,あるいは標準編成とは別に特殊な楽器(サクソフォーン,各種の打楽器,鍵盤楽器など)も導入されるようになった。

作曲家が各声部に特定の楽器を指定して作品の音響像に責任を持つようになった時点で始まる。初期の有名な例は,ベネチア楽派のG.ガブリエリの曲集《サクレ・シンフォニエ》(1597)に収められたカンツォーナ《ピアノとフォルテソナタ》であるが,大編成かつ多様な音色の使い分けを巧みに実現させた最初の作品は,モンテベルディオペラオルフェオ》(1607)のオーケストラであろう。しかし,低音線の補強と即興的な和声充塡という通奏低音の原理に立脚していたバロック時代(1600ころ~18世紀前半)の管弦楽は,管楽器の性格的な用法を伴うことはあっても概して弦を主体としており,音色素材の多様なコントロールに必ずしも貢献しなかったことも事実である。管弦楽法の本格的な展開は,通奏低音と決別して近代的オーケストラが形成されてゆく18世紀後半に始まる。特に古典派の時代(18世紀後半~19世紀初頭)には,音楽に応じた楽器間の有機的な絡み合いが見られ,クラリネットなどの新しい楽器が導入されて,今日の管弦楽の基礎が形づくられた。19世紀には,音色と音量の側面に目が向けられた。特にベルリオーズの管弦楽法は,後輩のリスト,ワーグナー,R.シュトラウスらによってさらに洗練,拡大され,また楽器の改良(木管のベーム・システムや金管のバルブ・システムなど)や開発(チューバ,サクソフォーンなど)によって,楽器の適用範囲の拡大化および新しい音素材の導入が促進された。しかし編成拡大化への傾向は,必ずしも音量的側面にばかりかかわっていたわけではなく,同時に管弦楽語法の質的多様化とも結び付いていた。20世紀に入ると,量と質という二つの契機はいっそう分離される傾向にあり,大編成においても室内楽的な精密さが要求される一方,旋律楽器の打楽器的な用法や,いわゆる新古典主義の擬バロックないし擬古典的様式,特殊楽器(オンド・マルトノなどの電気楽器)の導入等々,さまざまな方向が打ち出されている。第2次世界大戦後には,ミュジック・コンクレートや電子音楽等の影響により,まったく新しい音素材(具体音や電子音,さらには民族楽器等)が取り入れられ,またそうした音響を楽器で表そうとするトーン・クラスター(密集音塊)の技法が生み出されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「管弦楽法」の意味・わかりやすい解説

管弦楽法
かんげんがくほう
orchestration

ある楽想を管弦楽化する作曲技法および,その際に必要な諸楽器の性能,相互の音響的関係,組合せの良否,楽句の処理法などを考察する音楽理論の一部。楽器の性能は,過去 100年の間に著しく変化したが,今日では一般に古典派以後の作品から用例がとられ,楽器の特質,奏法,音域などが説明される。さらに,諸楽器の組合せ方,音色あるいは音量の対比のさせ方などは,管弦楽法の重要な部門で,いかに管弦楽を駆使して最大の効果をあげるかが問題となる。管弦楽法は比較的近代になって発達し,H.ベルリオーズや R.シュトラウス,リムスキー=コルサコフの管弦楽法の著書が有名である。

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世界大百科事典(旧版)内の管弦楽法の言及

【管弦楽】より

…19世紀に入ってからは,ウェーバー,ベルリオーズ,マイヤーベーアがオーケストラの拡大の道をさらに推し進めた。ベルリオーズはその著《管弦楽法》(1843)で,新しい管楽器や打楽器の使用をすすめ,通常のコンサートの理想的なメンバーとして121名,フェスティバルのためには465名という数をあげている。このようなロマン派のオーケストラの巨大化は,ワーグナー(オーケストラに〈ワーグナー・チューバ〉を加えた),マーラー(交響曲第8番は,1000人以上のメンバーを必要とするので《1000人の交響曲》とよばれる),R.シュトラウス(華麗をきわめた管弦楽法を用いた),A.シェーンベルク(《グレの歌》は独唱と合唱を含む膨大な編成で有名)によって頂点に達した。…

※「管弦楽法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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