改訂新版 世界大百科事典 「ダンディン」の意味・わかりやすい解説
ダンディン
Daṇḍin
7世紀のサンスクリット伝奇小説作家,詩論学者。生没年不詳。伝記は明らかでないが,散文の伝奇小説《ダシャクマーラチャリタDaśakumāracarita(十王子物語)》の作者として名高い。この物語は10人の貴公子たちの冒険奇談を主題とし,興味深い多くの挿話を含み,中世インドの社会状態を詳しく描写しているので,風俗小説とか悪党小説などとよばれている。現存のテキストは3編14章から成っているが,最初の5章と第8章の後半以下は後世の補遺とみなされている。本書にはすぐれた修辞的技巧が示されているので,同名の詩論学者と同一人物であろうと考えられている。詩論・修辞学書《カービヤーダルシャKāvyādarśa》は3編660頌の詩句から成り,文体の区別,修辞・韻律上の技巧を詳説し,文学作品(カービヤ)の特徴や欠点などについても述べている。本書はサンスクリット修辞学(アランカーラalaṃkāra)の発達に貢献するところが大きかった。
執筆者:田中 於菟弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報