カービヤ(英語表記)kāvya

改訂新版 世界大百科事典 「カービヤ」の意味・わかりやすい解説

カービヤ
kāvya

サンスクリットで書かれた美文体の文学作品の総称。韻文散文および両者の混交した戯曲も包含し,プラークリット語やアパブランシャ語の併用も許される。厳密な定義を下すことはむずかしいが,読者に一定の情緒ラサ)を喚起させ,特定の特徴(グナ)のある文体(リーティ)を備え,複雑な修辞法(アランカーラalaṁkāra)によって修飾された文学的作品をいうもので,内容にもある程度の制限があるため,むしろ形式に重きをおく傾向が強い。カービヤの起源は一般に大叙事詩ラーマーヤナ》にあるといわれているが,この大叙事詩の後に抒情詩,叙事詩,戯曲,伝奇小説,説話寓話など各種類の作品が作られ,これにともなって詩論,修辞学,戯曲論等が著しく発達した。これらの理論書はカービヤの特徴や欠点(ドーシャ)を論じ,詳細,煩雑な規定を設けて作品を束縛し,表現の技巧・工夫に腐心させた。カービヤはこのように修辞・技巧に重きをおいたが,一方において詩の本質についても探究し,アランカーラ(修辞)派,リーティ(文体)派,ラサ(情緒)派,ドゥバニ(暗示)派などがそれぞれ詩の本質を主張して学派をなした。カービヤはしばしば宮廷詩とよばれるが,これは文芸作家の多く国王庇護をうけて宮廷詩人となっていたからで,本質的な名称ではない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カービヤ」の意味・わかりやすい解説

カービヤ
Kāvya

サンスクリット語および俗語で書かれた美文体の文学作品をいう。読者に一定の情緒を起させ,もろもろの長所を含む文体をそなえ,修辞によって修飾された文学作品で,厳密にいえば,西欧の「詩」とは異なる。7世紀頃の詩論家ダンディンは,カービヤを,韻文,散文,混交文に大別し,それぞれを細分している。伝統的な説では,大叙事詩『ラーマーヤナ』を最初のカービヤとする。馬鳴 (めみょう。アシュバゴーシャ,1~2世紀頃) ,バーサ (3世紀頃) を経て,カーリダーサ (4~5世紀) ,ババブーティ (8世紀) にいたって最盛期を迎えた。また,多数の詩論家も輩出した。

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世界大百科事典(旧版)内のカービヤの言及

【バールミーキ】より

…したがって,これを一人の人物の単独の著作と考えることはとうてい不可能であり,もしバールミーキなる人物が《ラーマーヤナ》の成立に寄与したとしても,最終的な編纂者,集大成者としての役割にとどまるものと思われる。しかし,インド文学の伝統においては,彼はカービヤKāvyaすなわちサンスクリット美文体文学の元祖と仰がれ,〈アーディ・カビādi‐kavi(最初の詩人)〉という称号を冠せられており,その作品とされる《ラーマーヤナ》は〈アーディ・カービヤādi‐kāvya(最初の美文体詩)〉と呼ばれている。【吉岡 司郎】。…

【バールミーキ】より

…したがって,これを一人の人物の単独の著作と考えることはとうてい不可能であり,もしバールミーキなる人物が《ラーマーヤナ》の成立に寄与したとしても,最終的な編纂者,集大成者としての役割にとどまるものと思われる。しかし,インド文学の伝統においては,彼はカービヤKāvyaすなわちサンスクリット美文体文学の元祖と仰がれ,〈アーディ・カビādi‐kavi(最初の詩人)〉という称号を冠せられており,その作品とされる《ラーマーヤナ》は〈アーディ・カービヤādi‐kāvya(最初の美文体詩)〉と呼ばれている。【吉岡 司郎】。…

【馬鳴】より

…カニシカ王(在位128‐153)の宗教顧問になってからは,王とともに月支国に行き,仏教をひろめ,功徳日(くどくにち)と敬称された。また,のちのグプタ朝において進められた仏典のサンスクリット語化の先駆者として,カービヤ(宮廷詩)調による釈迦の伝記《ブッダチャリタBuddhacarita》(漢訳名《仏所行讃》)を作った。釈迦をたたえる仏教詩人としては,このほかに,《犍稚梵讃(けんちぼんさん)》《大荘厳論経》《サウンダラナンダ》,そして戯曲《シャーリプトラ・プラカラナ》などを書いた。…

※「カービヤ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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