改訂新版 世界大百科事典 「カービヤ」の意味・わかりやすい解説
カービヤ
kāvya
サンスクリットで書かれた美文体の文学作品の総称。韻文,散文および両者の混交した戯曲も包含し,プラークリット語やアパブランシャ語の併用も許される。厳密な定義を下すことはむずかしいが,読者に一定の情緒(ラサ)を喚起させ,特定の特徴(グナ)のある文体(リーティ)を備え,複雑な修辞法(アランカーラalaṁkāra)によって修飾された文学的作品をいうもので,内容にもある程度の制限があるため,むしろ形式に重きをおく傾向が強い。カービヤの起源は一般に大叙事詩《ラーマーヤナ》にあるといわれているが,この大叙事詩の後に抒情詩,叙事詩,戯曲,伝奇小説,説話,寓話など各種類の作品が作られ,これにともなって詩論,修辞学,戯曲論等が著しく発達した。これらの理論書はカービヤの特徴や欠点(ドーシャ)を論じ,詳細,煩雑な規定を設けて作品を束縛し,表現の技巧・工夫に腐心させた。カービヤはこのように修辞・技巧に重きをおいたが,一方において詩の本質についても探究し,アランカーラ(修辞)派,リーティ(文体)派,ラサ(情緒)派,ドゥバニ(暗示)派などがそれぞれ詩の本質を主張して学派をなした。カービヤはしばしば宮廷詩とよばれるが,これは文芸作家の多くが国王の庇護をうけて宮廷詩人となっていたからで,本質的な名称ではない。
執筆者:田中 於菟弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報