日本大百科全書(ニッポニカ) 「チャーム粒子」の意味・わかりやすい解説
チャーム粒子
ちゃーむりゅうし
チャームクォークcharm quark(cクォークと略す)またはその反粒子をその構成要素にもつ一群の素粒子の総称。チャームクォークとは、通常の3種のクォーク(u、d、s)に次いで重い第4番目のクォークで、スピンは他のクォークやレプトンと同じく1/2、電荷は電気素量を単位としてuクォークと同じく2/3の値をもつ。ハドロンを構成する仮想的な基本粒子として4種類のものが必要であることは1963年に牧二郎(1929―2005)と原康夫(やすお)(1934―2024)によって主張されたが、グラショーらはのちにこの説をクォーク模型の拡張として修正した。cクォークの質量はu、d、sに比して重く1.5GeV(ギガ電子ボルト)程度であるので、これを含むハドロンも他に比して重い。実験的には1974年にティンやリヒターらによって発見されたJ/ψ(プサイ)粒子や、その後にみいだされたF、D中間子の存在によって、チャーム粒子の存在が立証された。しかし、重いクォークの存在については、1973年に小林誠と益川敏英(ますかわとしひで)はCP非保存(CP対称性の破れ)の相互作用の存在を与える説明の手段の一つとして、さらに2種類のクォーク(t、b)を導入する理論を提起した(「小林・益川理論」)。b(ボトムbottomまたはビューティーbeautyとよばれる)を構成要素とする素粒子の存在も、レーダーマン、山内泰二(たいじ)(1931― )らのグループのΥ(ウプシロン)粒子の発見(1979)によって実証されている。また、t(トップtop)クォークについても1995年に質量175GeV程度の粒子として発見されている。ハドロンのなかからクォークを単体で外部に取り出すことはできないが、チャーム粒子の発見は、基本粒子の概念による新種のハドロンの存在が正しく予言された重要な例である。
[牧 二郎]
『シェルダン・L・グラショウ著、藤井昭彦訳『クォークはチャーミング――ノーベル賞学者グラショウ自伝』(1996・紀伊國屋書店)』▽『小林昭三他著『素粒子・クォークのはなし』(2003・ナツメ社)』▽『南部陽一郎著『クォーク――素粒子物理はどこまで進んできたか』第2版(講談社・ブルーバックス)』