日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツェツェバエ」の意味・わかりやすい解説
ツェツェバエ
つぇつぇばえ
tsetse fly
昆虫綱双翅(そうし)目環縫亜目ツェツェバエ科Glossinidaeの昆虫の総称。体長はハエ類では中形から大形で、中形種が体長6~9ミリメートル、大形種が10~14ミリメートル。褐色もしくは暗褐色。口吻(こうふん)は針状、頭部下部より前方に突出している。はねの中室が手斧(ておの)形で、触角端刺には背面にのみ二叉(にさ)に分かれた毛を列生する。はねは腹部背面に重ねて静止する。動作は敏速で、人畜を襲撃して吸血する。
本科には22種が知られ、すべてアフリカ産である。アフリカの睡眠病やナガナ病などの病原体であるトリパノソーマを媒介するので衛生上重要である。胎生で、卵は子宮内で孵化(ふか)し、幼虫は母虫の子宮付属腺(せん)(ミルク腺)から分泌される栄養を吸収し成熟する。3齢幼虫は丸みをもったウジで、前蛹(ぜんよう)に成熟すると産下され、ただちに土中に潜って蛹化する。幼虫は一度に1匹が子宮で成熟する。蛹(さなぎ)は黒褐色で爆弾形をしている。成虫は森林やサバンナに多くみられ、蛹は倒木の下、大きな木の根元、岩陰などの乾燥した粗い土中に発見される。成虫は動物の呼気中の二酸化炭素に誘引されて吸血に飛来する。サバンナツェツェバエGlossina morsitansが有名で、この種は北スーダンからトランスバールまで分布し、ローデシアトリパノソーマを媒介する。
[倉橋 弘]