ツルムラサキ(読み)つるむらさき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツルムラサキ」の意味・わかりやすい解説

ツルムラサキ
つるむらさき / 蔓紫
[学] Basella alba L. 'Rubra'
Basella rubra L.

ツルムラサキ科(APG分類:ツルムラサキ科)の非耐寒性の多年生つる草。熱帯アジア原産。原地では葉菜として食用にするが、日本では鉢づくりにして観葉植物としても扱う。つるは2メートル以上に伸び、他物に巻き付いて茂り、紫紅色でつやがある。葉は互生し、広卵形、肉厚で、紫赤色を帯びる。夏から秋、葉腋(ようえき)に淡紅色を帯びる白色の小花を短穂状につける。果実は球状、青藍(せいらん)色に熟す。日本で食用にされるものは、茎葉が緑色の基本種で、栄養価が高く、食味がよいとされ、おひたし、炒めもの、汁の実などに利用される。

 栽培は実生(みしょう)により、春に播種(はしゅ)する。鉢栽培ではアサガオと同じく行灯(あんどん)仕立てにして観賞するが、垣根に絡ませたり、日よけづくりにしてもよい。

 ツルムラサキ科はよじ登り性の多年草で、世界に約5属22種あり、熱帯アフリカを中心にアジア、アフリカに少数分布する。

[柳 宗民 2021年2月17日]

 APG分類では、ツルムラサキ科は世界に4属約20種がある。

[編集部 2021年2月17日]

文化史

ツルムラサキは落葵(らくき)の名で、3世紀の中国の『博物志』に初見し、6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』には、実から染料をつくる方法が記述されている。日本でも染色に使われ、江戸時代の『菜譜(さいふ)』(1704)には、食用のほか、実で紙を染めると書かれている。奈良県御所(ごせ)市の一言主神社(ひとことぬしじんじゃ)には、神事に使う御幣を、ツルムラサキの実で染める手法が古くから伝わる。果実は水浸すると美しいワインレッドの染料になるが、日がたつと退色する。漢名の一つ藤菜(とうさい)は色が関与した名と考えられるが、ほかにも菜(しゅうさい)をはじめ異名が多い。現代の中国では木耳菜(ムーアルツァー)ともよぶ。蘇東坡(そとうば)は豊湖の藤菜がジュンサイのあつもの(蓴羹(じゅんこう))に匹敵すると詠んだ。「豊湖有藤菜似可敵蓴羹(ほうこにありとうさいにててきすべしじゅんこう)」(新年五首の第三首)。日本では『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918ころ)に落葵、和名加良阿布比(からあふひ)と載るが、このカラアオイがツルムラサキかどうか確定されていない。ツルムラサキの名は『多識編(たしきへん)』(1612)に豆留牟良佐岐(つるむらさき)と初めて出る。現在は属名バセラも使われている。

[湯浅浩史 2021年2月17日]


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食の医学館 「ツルムラサキ」の解説

ツルムラサキ

《栄養と働き》


 熱帯アジア原産で、二〇〇〇年も前から食用にされている歴史の古い野菜です。
 しかし、わが国で食用に用いられるようになったのは比較的最近で、江戸時代に中国から伝わって以降、長いあいだ観葉植物として親しまれていました。
「バセラ」「フジナ」「オチアオイ」などとも呼ばれます。
 他のものに巻きついて5mにも伸びますが、食用にするのはツル先から15cmくらいまでの茎と若葉です。
 夏から秋にかけて白い花が咲き、花が散ったあとに実がなります。実は秋から冬にかけて黒紫色に熟し、この実からとった果汁を、古代中国では染料やインクとして利用していたといいます。現在はおもに食用色素として利用されています。
〈ホウレンソウの3倍ものカルシウムを含む〉
○栄養成分としての働き
 ツルムラサキは、その赤紫色の葉の中に、カロテンやビタミンC、カルシウムをたっぷり含んでいます。
 カロテンは体内でビタミンAにかわり、正常な細胞をがん化させる活性酸素を除く働きをします。
 ホウレンソウの約3倍もの量を含むカルシウムは、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)予防、精神の安定などに効果的。ストレスがたまってイライラ感がつのったら、積極的にとりたい食品です。
 また、青菜のなかでは、鉄、亜鉛(あえん)などミネラルが多いのが特徴。とくに鉄分が多いので、貧血の人におすすめです。そのほか、肝臓病、便秘(べんぴ)にも有効に働きます。
 わずかですが、ゲルマニウムという物質も含んでいます。ゲルマニウムは、血液循環をよくし、老化を防いで各器官の働きを活発にするといわれています。

《調理のポイント》


 ツルムラサキは茎にも葉にも、独特の青臭さがあり、独特のぬめりがあるのが特徴です。
 熱湯でゆでて料理しますが、火を通しすぎると臭みがでて、歯ごたえも悪くなるので、さっとゆでる程度にします。
 花のついた先端部分は刺身のツマに、葉は炒(いた)めもの、てんぷら、おひたし、和えものに使います。
 健康茶として飲む方法もあります。その際は、茎を摘んで細かく刻み、数日天日で干したあと軽く煎(い)ります。それを急須(きゅうす)に入れて熱湯を注いで飲みます。

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改訂新版 世界大百科事典 「ツルムラサキ」の意味・わかりやすい解説

ツルムラサキ
Malabar nightshade
Basella rubra L.(=B.alba L.)

熱帯域で広く栽培されるツルムラサキ科の多年生つる草だが,日本などでは一年草として取り扱われる。茎は赤紫色で他物に巻きつき,よじのぼり,長さ1~4mになる。葉は互生,広卵形で鋸歯はなく,やや肉質になる。花は葉腋(ようえき)から出る穂状花序にまばらにつき,淡桃紫色,小型の5枚の肉質の萼片は下部が合着し,筒状になっている。花弁はない。果実は球形で,多肉質の宿存する萼につつまれ,紫黒色に熟す。花が白色,葉がやや狭長になる系統(B.alba L.)や葉が闊大(かつだい)で基部が心形になる系統(B.cordifolia Lam.)は別種とされることもあるが,種を分けるようなちがいではない。原産地は東南アジアとする意見もあるが,現時点では分明ではない。

 日本ではもっぱら鉢植えにしたり,垣根にはい上がらせて,紅紫色と緑の対比の美しい茎葉や,つややかな果実を観賞する。しかし,英名のIndian spinachからもわかるように,熱帯域では若芽や葉が広く野菜として食用にされる。赤紫色の果汁はインクや染料に使われたが,染色性は悪い。また全草を解熱,利尿などの民間薬として用いることがある。

 ツルムラサキ科は熱帯域に4属25種ほどが分布する小さな科である。ホウレンソウの所属するアカザ科に近縁で,この科に入れられることもある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ツルムラサキ」の意味・わかりやすい解説

ツルムラサキ(蔓紫)
ツルムラサキ
Basella rubra

ツルムラサキ科の多年生つる植物。熱帯アジアの原産で,観賞用に栽培される。茎は太い円柱形で多肉,表面は平滑で通常濃い赤紫色をしているが,緑色のものもある。葉は互生し,長さ5~8cmの卵形で多肉,茎が紫色の品種では葉柄や葉の裏面も濃い赤紫色をする。夏に,葉腋から穂状の花序を出し,白色粒状の小さな花を多数つける。本来の花弁はなく,花弁状にみえるのは萼で,上部は赤色を帯びる。熟すると紫黒色球形の液果ができる。東南アジアの一部ではこの植物を野菜として食用にするところもある。

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百科事典マイペディア 「ツルムラサキ」の意味・わかりやすい解説

ツルムラサキ

熱帯アジア原産のツルムラサキ科のつる性の多年草であるが,園芸的には一年草として扱われている。茎や葉は肉質で,茎は赤紫色で長さ1〜4m,広卵形の葉を互生する。夏〜秋,葉腋から太く長い花茎を出し,花弁のない花を穂状に密につける。萼(がく)は白色から紅色に変わり,基部は袋状となる。観賞用として庭などに植えられるほか,若い茎や葉は野菜として食用にされる。

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事典 日本の地域ブランド・名産品 「ツルムラサキ」の解説

つるむらさき[葉茎菜類]

東北地方、宮城県の地域ブランド。
主に刈田郡蔵王町・角田市・柴田郡柴田町・遠田郡涌谷町などで生産されている。カルシウム・ビタミンC・カロチンが豊富で、夏場の健康野菜として注目されている。宮城県の出荷量は全国一。

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栄養・生化学辞典 「ツルムラサキ」の解説

ツルムラサキ

 [Basella rubra].バセラ,フジナ,オチアオイ,フジアオイ,インディアンスピナッチなどともいう.ナデシコ目ツルムラサキ科ツルムラサキ属の一年草.若芽を食用にする.

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