翻訳|germanium
周期表ⅣB族に属する金属元素の一つ。安定同位体として5種,放射性核種としては65Geから77mGeまでに11種が知られている。1871年D. I.メンデレーエフによりその存在が予言されエカケイ素と名づけられたが,86年にC.A.ウィンクラーによって硫銀ゲルマニウム鉱argyrodite(Ag8GeS6)から発見され,ドイツのラテン名Germaniaにちなんで命名された。ケイ素に似ているため,地殻中のケイ酸塩のケイ素と置換して広く存在し,また銅や亜鉛などを含む硫化鉱物や石炭の中にも含まれるが,ゲルマニウムを主体とする鉱物は少なく,地殻中の含有量は1万分の7%くらいである。
やや青みがかった灰白色の金属で,モース硬度は6.5。立方晶系でダイヤモンド型構造をもち,電気伝導性は小さい。比抵抗は60Ωcmだが,極微量の不純物により2~40Ωcm程度に大きく変化する。融解に際して体積が数%収縮する。常温での充満帯と伝導帯とのエネルギー間隔(禁止帯の幅)は0.66eVで,純度の高い結晶は室温で真正半導体となる(バンド構造)。不純物としてⅢ価またはⅤ価の原子を含むとp型またはn型半導体としての性質を示す。比誘電率は16.1。空気中では安定であるが,赤熱すると二酸化ゲルマニウムGeO2となる。酸,アルカリにはかなり安定で,王水には溶ける。粉末は濃硝酸に溶ける。Ⅱ価(GeO,GeS,Ge(OH)2,GeX2,Xはハロゲン)とⅣ価(GeO2,Ge(OH)4,GeX4など)の酸化数をとるが,Ⅳ価のほうが安定である。-Ⅳの酸化数(Mg2Geなど)をとる場合もある。GenH2n+2,GenHn,GenH2nなどの組成をもつ水素化合物も知られている。
半導体材料として早くから生産され広く用いられていたが,ケイ素と比べると資源量も少なく,高温度での半導体としての性質も劣ることから,その大部分の用途はケイ素におきかえられている。最近になって光ファイバーの光通信材料の中心部材にわずかのゲルマニウムを含有させたガラスが用いられるようになった。酸化物は耐熱材料やレンズに,合金として熱電対,歯科用材料,精密抵抗材料などにも用いられている。
ゲルマニウムを含む鉱石のおもな産地はコンゴ民主共和国のシャバ州で,この地方の銅鉱や亜鉛鉱製錬の煙灰中に濃縮されて,0.2~0.4%含まれている。ほかにも浮遊選鉱副産物として得られる0.2~0.4%のゲルマニウム精鉱や石炭燃焼時の火力発電所の煙灰などが製錬の対象となる。
これらの資源に還元剤を加えて加熱し,ゲルマニウムは硫化物として揮発回収し,さらに酸化してGeO2を20~30%含む中間生成物を得る。この中間体からさらに四塩化ゲルマニウムGeCl4の形で精製したのち加水分解で高純度二酸化ゲルマニウムGeO2を作る。高純度水素による還元で金属ゲルマニウムにしたのちゾーンメルティングによって超高純度の半導体用材料とする。日本では,輸入した二酸化ゲルマニウムと加工スクラップとを原料として生産している。
執筆者:大瀧 仁志+後藤 佐吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
周期表第14族に属し、炭素族元素の一つ。1871年ロシアのメンデレーエフが周期律を発表した際、周期表でケイ素の下に位置すべき元素は未発見であるとして、この元素をエカケイ素と名づけ(エカekaは1を意味するサンスクリット語)、その性質を予言した。1885年ドイツの鉱物学者ワイスバッハA. Weisbach(1833―1901)が発見したアージロド鉱(Argyrodite)4Ag2S・GeSの分析をドイツのC・ウィンクラーに依頼した。ウィンクラーは1886年この鉱物からアンチモンに似た性質をもつ新元素を発見し、これをドイツのラテン名ゲルマニアにちなんでゲルマニウムと命名した。ウィンクラーはこの元素の性質を詳細に研究し、この新元素がメンデレーエフのエカケイ素に相当することを示した。
[守永健一・中原勝儼]
天然に単体としては存在しないが、ケイ酸塩中のケイ素を置換した形で広く分布する。また石炭、硫化鉱物中にも微量含まれ、さらに植物に吸収されることもある。石炭を燃焼させると煙灰に集まり、乾留するとガス液に集まる。また亜鉛鉱石、銅鉱石などの精錬に際してゲルマニウム化合物が副生する。いずれにしてもこれらを主原料とし、四塩化ゲルマニウムとしてから蒸留によって精製、加水分解して二酸化ゲルマニウムとしたのち水素で還元して単体をつくる。さらにこれをゾーンメルティング(帯融解法)によって不純物1億分の1%程度の純度、すなわちテンナイン(99.99999999%)の高純度のものが得られる(
はゲルマニウム製錬工程の一例)。[守永健一・中原勝儼]
銀白色の硬い金属。ダイヤモンド型構造。典型的な真性半導体で、室温での比抵抗は約60オーム・センチメートル、200℃では約100分の1に減少する。ガリウムまたはヒ素を微量加えると、それぞれp型またはn型の半導体となる。化学的には酸化数ⅡおよびⅣの化合物をつくる。空気中では室温で安定で、赤熱以上で初めて酸化される。塩酸、希硫酸に不溶。熱濃硫酸には二酸化硫黄(いおう)を放って溶ける。アルカリ溶液には徐々に溶けてゲルマニウム(Ⅳ)化合物を生成する。王水、過酸化ナトリウムなどに侵され、粉末は濃硝酸により二酸化ゲルマニウム水和物となる。塩素と熱すれば四塩化ゲルマニウムとなり、濃塩酸溶液から蒸留できる。
[守永健一・中原勝儼]
第二次世界大戦中、極超短波の検波器としてゲルマニウムの優れた性能が認められ、小型軽量の点で真空管より有用なことがわかり、トランジスタ、ダイオードの製造をはじめ、今日のエレクトロニクスの分野での主役となった。特殊な用途として、通常のガラスに加えて屈折と分散が大きく赤外線を通すガラスの製造、金に12%ぐらいのゲルマニウムを加えた合金が歯科用に用いられる。そのほか熱電対、抵抗材料、蛍光材料に用いる( 参照)。
[守永健一・中原勝儼]
ゲルマニウム
元素記号 Ge
原子番号 32
原子量 72.61±3
融点 937.4℃
沸点 2830℃
比重 5.35(測定温度20℃)
結晶系 立方
元素存在度 宇宙 126(第27位)
(Si106個当りの原子数)
地殻 1.5ppm(第52位)
海水 0.05μg/dm3
Ge.原子番号32の元素.電子配置[Ar]3d104s24p2の周期表14族(半)金属元素.原子量72.64(1).質量数70(20.38(18)%),72(27.31(26)%),73(7.76(8)%),74(36.72(15)%),76(7.83(7)%)の5種の安定同位体と,質量数58~89の放射性同位体が知られている.1885年,ドイツのC. Winkler(ウィンクラー)により発見された.元素名はかれの母国にちなんで命名された.
地表近くのケイ酸塩中では,ケイ素の一部を置換して存在するほか,せん亜鉛鉱などの硫化鉱,あるいは石炭中にも存在する.地殻中の存在度1.6 ppm.亜鉛,銅,鉛などの製錬の際の副産物として得られる.最大の資源国はアメリカであるが,わが国の輸入先は中国(70%),ベルギー(10%)が主である.世界の消費量の約3割がリサイクルにより得られる.半導体製造などに用いられるゲルマニウムは,とくに高純度が要求されるので,GeCl4に換えて,その揮発性を利用して蒸留精製後,水との反応で酸化物GeO2にして水素で還元し,さらに帯域融解法で精製される.等軸晶系のダイヤモンド型構造をもち,青白色の硬い金属.融点937.4 ℃,沸点2830 ℃.密度5.323 g cm-3(20 ℃).モース硬さ6.標準電極電位 Ge2+/Ge 0.247 V.第一イオン化エネルギー7.899 eV.空気中ではかなり安定で,酸,アルカリにも侵されにくい.粉末は濃硝酸に溶ける.王水には溶けるが塩酸には溶けない.半導体として広く利用されるほか,合金の性質改良に少量加えられることがある.酸化数2,4の化合物が知られているが,一般には GeⅣのほうが安定である.GeⅡではGeO,GeS,Ge(OH)2,GeX2(Xはハロゲン)などがあるが,GeS以外は不安定である.GeⅣの安定な化合物にはGeO2,Ge(OH)4,GeX4などがあり,共有結合性化合物としてR4Ge,GenH2n+2などがある.水素化ゲルマニウムGeH4は有毒で,きわめて可燃性の気体(空気に触れて発火).(GeH)x,(GeH2)x などの重合体もあり,また金属との間には合金あるいは金属間化合物が存在する.単体半導体,接触改質法の触媒成分に用いられる.GeO2は石英ガラス光ファイバーのコアに屈折率を高めるために数% 添加されている.また,酸化ゲルマニウムはポリエチレンテレフタレート(PET)製造の重合触媒として用いられる.国内の最大の需要はPET用触媒,ついで光ファイバー用ドープ材である.[CAS 7440-56-4]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…1865年,発見されてまもない新元素インジウムについて詳しい研究をおこなった。86年フライベルク産の銀鉱石から新元素を発見し,ゲルマニウムと命名。これはD.I.メンデレーエフによって予言された元素であることがただちに認められ,周期律を確証するものとなった。…
※「ゲルマニウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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