ゲルマニウム(読み)げるまにうむ(英語表記)germanium 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲルマニウム」の意味・わかりやすい解説

ゲルマニウム
げるまにうむ
germanium 英語
Germanium ドイツ語

周期表第14族に属し、炭素族元素の一つ。1871年ロシアのメンデレーエフが周期律を発表した際、周期表でケイ素の下に位置すべき元素は未発見であるとして、この元素をエカケイ素と名づけ(エカekaは1を意味するサンスクリット語)、その性質を予言した。1885年ドイツの鉱物学者ワイスバッハA. Weisbach(1833―1901)が発見したアージロド鉱(Argyrodite)4Ag2S・GeSの分析をドイツのC・ウィンクラーに依頼した。ウィンクラーは1886年この鉱物からアンチモンに似た性質をもつ新元素を発見し、これをドイツのラテン名ゲルマニアにちなんでゲルマニウムと命名した。ウィンクラーはこの元素の性質を詳細に研究し、この新元素がメンデレーエフのエカケイ素に相当することを示した。

[守永健一・中原勝儼]

存在と製法

天然に単体としては存在しないが、ケイ酸塩中のケイ素を置換した形で広く分布する。また石炭、硫化鉱物中にも微量含まれ、さらに植物に吸収されることもある。石炭を燃焼させると煙灰に集まり、乾留するとガス液に集まる。また亜鉛鉱石、銅鉱石などの精錬に際してゲルマニウム化合物が副生する。いずれにしてもこれらを主原料とし、四塩化ゲルマニウムとしてから蒸留によって精製、加水分解して二酸化ゲルマニウムとしたのち水素で還元して単体をつくる。さらにこれをゾーンメルティング(帯融解法)によって不純物1億分の1%程度の純度、すなわちテンナイン(99.99999999%)の高純度のものが得られる(はゲルマニウム製錬工程の一例)。

[守永健一・中原勝儼]

性質

銀白色の硬い金属。ダイヤモンド型構造。典型的な真性半導体で、室温での比抵抗は約60オーム・センチメートル、200℃では約100分の1に減少する。ガリウムまたはヒ素を微量加えると、それぞれp型またはn型の半導体となる。化学的には酸化数ⅡおよびⅣの化合物をつくる。空気中では室温で安定で、赤熱以上で初めて酸化される。塩酸希硫酸に不溶。熱濃硫酸には二酸化硫黄(いおう)を放って溶ける。アルカリ溶液には徐々に溶けてゲルマニウム(Ⅳ)化合物を生成する。王水、過酸化ナトリウムなどに侵され、粉末は濃硝酸により二酸化ゲルマニウム水和物となる。塩素と熱すれば四塩化ゲルマニウムとなり、濃塩酸溶液から蒸留できる。

[守永健一・中原勝儼]

用途

第二次世界大戦中、極超短波検波器としてゲルマニウムの優れた性能が認められ、小型軽量の点で真空管より有用なことがわかり、トランジスタダイオードの製造をはじめ、今日のエレクトロニクスの分野での主役となった。特殊な用途として、通常のガラスに加えて屈折と分散が大きく赤外線を通すガラスの製造、金に12%ぐらいのゲルマニウムを加えた合金が歯科用に用いられる。そのほか熱電対、抵抗材料、蛍光材料に用いる(参照)。

[守永健一・中原勝儼]



ゲルマニウム(データノート)
げるまにうむでーたのーと

ゲルマニウム
 元素記号  Ge
 原子番号  32
 原子量   72.61±3
 融点    937.4℃
 沸点    2830℃
 比重    5.35(測定温度20℃)
 結晶系   立方
 元素存在度 宇宙 126(第27位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 1.5ppm(第52位)
       海水 0.05μg/dm3

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゲルマニウム」の意味・わかりやすい解説

ゲルマニウム
germanium

元素記号 Ge ,原子番号 32,原子量 72.61。周期表 14族,炭素族元素の1つ。単体は灰白色の硬い半金属。融点 958.5℃,比重 5.35。空気中では安定。赤熱温度以上で酸化される。塩酸,希硫酸に不溶。王水,アルカリ溶液 (過酸化水素を含む) に可溶。原子価は4価。ダイヤモンド型構造をもつ典型的な半導体。間接遷移型のエネルギー帯構造をとり,常温での禁制帯幅は 0.66eV。5価の不純物原子を加えるとn型半導体となり,3価の不純物原子を加えるとp型半導体となる。 D.メンデレーエフによりエカシリコンとして存在が予想され,1886年 C.ウィンクラーによって発見された。地殻の平均含有量は 1.4ppm。石炭,硫化鉱物中に比較的濃縮されて存在する。工業上の資源は亜鉛精錬工場の煙灰。 1947年にベル電話研究所の W.B.ショクリー,J.バーディーン,W.H.ブラッティンらが,n型ゲルマニウムで初めて点接触トランジスタを発明,固体エレクトロニクスの時代を開いた。現在は,半導体材料としてはケイ素が主として用いられているが,ゲルマニウムはケイ素に比べて順方向の立上がり電圧が低い,キャリアの移動度が高い,長波長の光に対しても感度を示すなどの特性を利用してダイオード,トランジスタ,赤色ケイ光体への用途を開いているほか,歯科用合金,赤外線透過ガラスの製造などに使われている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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