知恵蔵 「テリーザ・メイ」の解説
テリーザ・メイ
英国国教会の牧師の家に生まれ、ロンドン近郊で育った。12歳頃に政治家を志す。英国の名門、オックスフォード大学に進み、地理を学んだ。卒業後はイングランド銀行など金融業界での勤務を経てロンドン区議となり、1997年、3度目の挑戦で下院(庶民院)議員に初当選した。2010年、前首相のキャメロン内閣で内務大臣に選ばれ、史上最長となる6年2カ月の任期を務めた。
EU離脱派が残留派を上回った国民投票の結果を受けて、16年6月、キャメロン前首相が辞意を表明したことから、次期首相を決める保守党の党首選に出馬した。同7月の第1回投票で得票数1位となり、対立候補の撤退により党首、英国首相となった。
同7月に行った就任演説では、「EUを去り、私たちは世界で新たな力強い役割を築く」と国民投票の結果を尊重する姿勢を見せ、「英国を少数の特権階級ではなく、全ての人のための国にする」と述べた。主要閣僚人事では残留と離脱で二分した国内の融和を意識し、政権のナンバー2となる財務大臣に残留派のフィリップ・ハモンド前外務大臣、新設されたEU離脱担当大臣に離脱派のデービッド・デービス元欧州担当大臣、同じく新設の国際貿易担当大臣に離脱派のリアム・フォックス元国防大臣を選んだ。また、離脱キャンペーンの先頭に立ち、保守党の党首選ではメイの対抗馬を推した前ロンドン市長、ボリス・ジョンソンをEU域外の国々との外交政策を担う外務大臣に指名するサプライズ人事もあった。
実務家として知られ、移民やテロ対策を担った内務大臣時代は警察改革を行い、犯罪率を低下させたほか、ヨルダン政府に直談判して過激派組織のリーダーを強制送還した。その一方で、政権が公約していた移民削減の目標数値を実現できず、批判された。
国民投票ではキャメロン前首相の下、残留派に回ったが、EUについてもともと懐疑的な考えを持つ。今後のEUとの離脱交渉では、離脱派が求めてきたEU加盟国からの移民の制限と、残留派が失うことを懸念したEU市場へのアクセス維持との両立という英国にとって好条件での妥結を目指す。交渉期間は原則2年間で、英国の正式な離脱通知により始まるが、メイは交渉に備えるため、16年内の通知は見送る考えを表明している。
夫は英国の資産運用会社「キャピタル・グループ」に勤務するフィリップ・メイで、オックスフォード大学時代に知り合い、1980年に結婚した。おしどり夫婦として知られ、子どもはいない。メイはヒョウ柄の靴を履くなど独自のファッションセンスも話題を呼んでおり、「無人島に持って行くぜいたく品」を聞かれた際は、ファッション誌「Vogue(ヴォーグ)」と答えた。趣味は料理で、100冊以上のレシピ本を活用しているという話もある。
(南 文枝 ライター/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報