改訂新版 世界大百科事典 「ディダケー」の意味・わかりやすい解説
ディダケー
Didachē
使徒教父に含まれる一文書。正確には《十二使徒を通して諸国民に与えられた主の教訓》,一般には《十二使徒の教訓》または標題の最初の語をとって《ディダケー(教訓)》と呼ばれる。教会規律の指導書という性格を持つ。内容は,〈生命の道〉と〈死の道〉とからなる道徳律,典礼に関する規定,教会生活に関する規定,終末論的な警告などからなる。十二使徒という名がつけられてはいるが,直接の関係はないと思われる。著者は不明である。本書は古代教会においてきわめて高い評価を受けており,〈原始キリスト教文学の高価な真珠〉と称されるほどである。アレクサンドリアのクレメンスは本書を尊敬の念をこめて引用し,エウセビオスやアタナシオスは,これを正典に準ずるものとみなした。成立の場所はエジプトよりは,むしろ内容から言ってシリア,パレスティナを考える方がよい。成立年代は60年という早い時期におく人もあるが1世紀末ないし2世紀初めとすべきであろう。
→使徒教父
執筆者:川村 輝典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報