日本大百科全書(ニッポニカ) 「デフレーター」の意味・わかりやすい解説
デフレーター
でふれーたー
deflator
ある経済量の金額表示の値(名目値)から、物価上昇分を除去(これをdeflateとよぶ)して実質値を得るために用いる物価指数のこと。名目値は、ある時点における取引価格で表した経済価値であり、そのなかには数量と価格の両方の変動が含まれる。ここから価格変動の要因を取り除き、実質値を求めるために考案された概念がデフレーターである。三者の間には以下の関係が存在することになる。
デフレーターの代表は、国民経済計算(「GDP統計」ともよばれる)におけるデフレーターである。いま、財(商品)iの基準時(比較の基準となる時点)の価格、比較時(t時点)の価格を、それぞれp0i、ptiとし、その財の基準時の購入量、比較時の購入量をq0i、qtiとすると、実質値は下記の式の左辺のように表現でき、右辺のように分解できる。
右辺の第1項は、比較時における各財の価格と数量を掛け合わせたものの合計なので名目値となる。右辺の第2項はデフレーターであるが、パーシェ指数の考え方に基づく物価指数となっている。GDP統計におけるデフレーターがパーシェ指数の考え方に基づくのは、以上の関係からである。
さらに、国内総生産(GDP)全体のデフレーター(GDPデフレーター)については、民間最終消費支出などの需要項目ごとに実質値と名目値を推計し、名目値の合計(名目GDP)を実質値の合計(実質GDP)で割ることで求められている。こうしたデフレーターをインプリシット・デフレーターimplicit deflatorとよぶ。
さて、前述の式の右辺第2項のデフレーターは、固定基準年方式に基づくパーシェ指数である。また、両辺の基準時の金額で除すと、下記の式のとおり、左辺は固定基準年方式に基づくラスパイレス指数、右辺の第1項は基準時で評価した金額指数となる。このような固定基準年方式におけるラスパイレス指数とパーシェ指数の関係から、実質の需要項目の合計が実質GDPに等しいという加法整合性が成り立っていた。
一方で、固定基準年方式のラスパイレス指数とパーシェ指数は基準時から離れるほど物価水準などを過大あるいは過小に推計する傾向がある。デジタル化の進展に伴い、2000年代初頭になるとパーシェ指数であるGDP統計のデフレーターの下方バイアス(結果として実質GDPの上方バイアスを生む)が問題視されてきた。また、GDP統計の国際基準においても連鎖方式のデフレーターが推奨され、アメリカ、カナダ、イギリスなどで導入が相次いだ。
以上のことから、内閣府は、2004年(平成16)12月8日に公表された2004年7~9月期の四半期別GDP速報の2次速報から連鎖方式のデフレーターを導入した。この結果、固定基準年方式における加法整合性が成立しなくなり、実質の需要項目の合計と実質GDPの間にずれ(開差とよばれる)が生じることとなった。なお、基準時(2018年時点では「2011年」)においては名目と実質が等しいとみなして推計しているので、実質の需要項目の合計は実質GDPに等しい。
GDPデフレーターはよく総合的な物価指数とよばれるが、国内における総合的な物価指数としては国内需要デフレーターのほうがふさわしい。ここで国内需要とは、民間最終消費支出、民間住宅投資、民間企業設備投資、民間在庫変動、政府最終消費支出、公的固定資本形成、公的在庫変動の合計である。GDPはこの国内需要に輸出を加え、輸入を差し引いて計算される。ここで、原油価格の高騰などで輸入デフレーターが上昇する一方、国内需要デフレーターや輸出デフレーターが十分に上昇しないと、国内需要デフレーターは上昇してもGDPデフレーターは下落する。こうした状況は2000年代に発生し、原油価格など投入コストが上昇しても、国内で長引いたデフレーション(デフレ)によってそれを十分に転嫁できず、企業収益や賃金にしわ寄せがおきていた。したがってGDPデフレーターは、価格転嫁が十分に行われているかどうかの尺度とみなすことができる。
[飯塚信夫 2019年2月18日]