デング熱、デング出血熱(読み)デングねつ、デングしゅっけつねつ

六訂版 家庭医学大全科 「デング熱、デング出血熱」の解説

デング熱、デング出血熱
デングねつ、デングしゅっけつねつ
Dengue, Dengue hemorrhagic fever
(感染症)

どんな感染症か

 熱帯・亜熱帯地方で主にみられるウイルス感染症で、原因はデングウイルスです。デングウイルスには1~4型の4つの型がありますが、どの型のウイルスでも同様の症状が起こるので、症状から感染したウイルスの型は特定できません。ヒトはデングウイルスに感染した蚊に刺されることによって感染します。これまで海外で感染する感染症とされていましたが、平成26年、日本国内での感染によるデング熱の患者発生が報告されています。

症状の現れ方

①デング熱

 デング熱は、デングウイルスが感染し症状が現れた患者さんの大多数を占める病気です。

 感染後2~10日ほどで突然の高熱で発症します。頭痛、眼の奥の痛み、腰痛、筋肉痛、骨痛が主な症状として現れ、さらに食欲不振、腹痛吐き気嘔吐、脱力感、全身倦怠感(けんたいかん)も現れることがあります。全身のリンパ節はれもみられます。また、発熱してから3~5日目には胸、背中、顔面、腕、脚に発疹が出ることもあります。

 これらの症状は約1週間で消え、通常は後遺症を残すことなく回復します。

②デング出血熱

 デングウイルスに感染したヒトのうち、最初はデング熱とほぼ同様に発症し経過しますが、熱が平熱にもどるころに血液中の液体成分(血漿(けっしょう))が血管からもれ出したり、出血の症状が現れたりすることがあります。この病気はデング出血熱と呼ばれ、適切な治療を行わないと死亡することがあります。

 血漿のもれは胸水(きょうすい)あるいは腹水(ふくすい)として現れます。出血は比較的軽い点状出血、注射部位からの出血、鼻出血、血便、重篤な吐血下血と多様です。血漿のもれが進行するとショック症状を起こし、デングショック症候群とも呼ばれます。

検査と診断

 海外で感染し帰国後発症する患者さんは年約200人報告されているので、発症前10日以内に熱帯・亜熱帯地域から帰国したという情報は重要ですが、一方、海外への渡航歴がなくても上記の症状が出現した場合にはデング熱、デング出血熱を疑う必要があります。しかし、症状のみでデング熱・デング出血熱を診断することは難しく、血液からデングウイルスやその遺伝子を検出すること、あるいは特異的な抗体を検出することが確定診断には必要です。

治療の方法

 デングウイルスに対する治療薬はなく、対症療法が中心です。デング熱・デング出血熱の発熱に対しては、出血傾向増悪(ぞうあく)させる可能性があるため、アスピリンを使用してはいけないことになっています。デング出血熱に対しては、補液が主な治療法です。

病気に気づいたらどうする

 感染症科や内科を受診する必要があります。ヒトからヒトへは感染しません。

倉根 一郎

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「デング熱、デング出血熱」の解説

デング熱・デング出血熱(フラビウイルス)

3)デング熱・デング出血熱:
デング熱・デング出血熱はデングウイルス1型,2型,3型,4型の感染によって起こる2つの異なる病態である.世界の熱帯・亜熱帯地域ほぼ全域で患者発生があるが,特に東南アジア,南アジア,中南米において患者数が多い.デングウイルスはヒトが自然宿主であり,蚊-ヒト-蚊の感染環で維持される.ネッタイシマカおよびヒトスジシマカが主たる媒介蚊である.毎年数千万人のデング熱患者と数十万人のデング出血熱患者が発生していると推察されている.日本にはデングウイルスは侵入しておらず国内感染はないが,近年は年100人をこえる輸入例が報告されている.世界保健機関(WHO)は近年デング熱,デング出血熱という従来の病名に代え,dengueとsevere dengueという病名を用いることを提唱している.しかし,現在もデング熱,デング出血熱(およびデングショック症候群)という病名は世界的に依然として広く用いられ,さらにわが国の感染症法においてもこの病名が用いられている.
a)デング熱(dengue fever):デング熱は,デングウイルス感染によって典型的な症状を示す患者の大多数を占める一過性の熱性疾患である.感染後2~7日の潜伏期の後,発熱で発症する.頭痛,眼窩痛,腰痛,筋肉痛,関節痛が主症状であり,食欲不振,腹痛,悪心,嘔吐,脱力感,全身倦怠感を伴う.第3~5病日には麻疹様発疹が体幹,顔面に出現し四肢に広がる.二峰性発熱(解熱後再度発熱する)が特徴的である.全身のリンパ節腫脹,知覚過敏,味覚異常,呼吸器症状(咳,咽頭痛,鼻炎),結膜充血がみられたり,末梢血白血球数の減少,血小板減少や出血傾向が認められることもある.症状は約1週間で消失し,通常後遺症なく回復するが,その後倦怠感が持続することもある.致死率はきわめて低い. b)デング出血熱(dengue hemorrhagic fever)(図4-4-10,4-4-11):デング熱とほぼ同様に発症し経過するが,特に解熱時に血漿漏出および出血傾向を主症状とする重篤な病態が出現する.デング出血熱の病態の主体は,血管の脆弱化,透過性亢進,循環血液量の減少と血液凝固系の異常である.患者は不安,興奮状態となり,発汗がみられ,四肢は冷たくなる.血漿漏出によるヘマトクリットの上昇,胸水・腹水の貯留が高率にみられる.肝臓の腫脹,補体活性化,血小板減少(100000/μL以下),血液凝固時間延長も認められる.出血傾向は点状出血,出血斑,注射部位からの出血,鼻出血,消化管出血,血便などの症状として認められる.ときに中枢神経症状が出現する.重篤な例では播種性血管内凝固症(DIC)が認められる.血漿漏出が進行すると循環障害を示し,適切な治療を施さないと致死率が高い.このようにショック症状が認められるものはデングショック症候群(dengue shock syndrome)とよばれる.デングショック症候群は速く弱い脈拍および脈圧の低下,低血圧,冷たく湿った皮膚,興奮状態が特徴的症状である.[倉根一郎]

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