改訂新版 世界大百科事典 「トガサワラ」の意味・わかりやすい解説
トガサワラ
Pseudotsuga japonica(Shirasawa) Beissn.
モミに似た針葉をもつ日本固有のマツ科の常緑高木で,深山に生え,量は多くない。高さ40m,直径1mに達し,幹の樹皮は暗褐色で,縦に裂け,鱗片状に剝げる。太枝は横に張って円錐形の樹冠をつくり,一年生枝は淡黄色。針葉は線形でその落ちた跡(葉枕(ようちん))は枝面に少し隆起している。4月に前年の枝に腋生(えきせい)の雄花が群がってつき,雌球花は前年枝の先端につく。10月ごろ卵形で長さ4~6cmの木質黄褐色の球果が熟して下向きにつく。10組ほどの円形の種鱗と細長く先端が3裂する苞鱗がある。材は木理が通直で,心材は淡紅褐色,辺材は黄白色を呈し,サワラに似て軽く軟らかく割れやすいので,まれに桶材や建築材として用いられるのみである。木部にはつねに樹脂道と放射仮道管がある。紀伊半島中南部と高知県東部魚梁瀬(やなせ)地方の標高500~1000mの暖帯林から温帯林下部に生育する。1893年に白沢保美によって学界に発表された。
トガサワラ属はほかに,台湾に1種,中国に3種,北アメリカ西部に2種がある。そのうち,アメリカトガサワラP.menziesii Franco(英名Douglas fir,Oregon pine)は高さ115m,直径4.5mに達する大高木になり,北アメリカのブリティッシュ・コロンビアからカリフォルニアにかけて分布し,大森林をつくる。北アメリカ北部の最も重要な林業樹種の一つで,その材は米松の名で日本にも大量に輸入され,建築,土木,合板用などに供される。西ヨーロッパにも導入され,各国でさかんに植林される。しかし,日本の北海道その他で試験的に植栽されたものは,植栽後15年ないし20年ぐらいで急に生長が鈍り,成績は芳しくない。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報