トノサマバッタ(読み)とのさまばった(英語表記)migratory locust

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トノサマバッタ」の意味・わかりやすい解説

トノサマバッタ
とのさまばった / 殿様蝗
migratory locust
[学] Locusta migratoria

昆虫綱直翅(ちょくし)目バッタ科に属する昆虫。裸地のある乾いた草地や河原などに多い大形のバッタ。バッタとしては典型的な体形をもっている。和名はその姿のよいことや頑丈な体つきからおこったもので、ダイミョウバッタ(大名蝗)ともいわれたが、現在はトノサマバッタのほうに落ち着いている。

 体長は雄35ミリメートル内外、雌50ミリメートル内外。体色には緑色型、褐色型のほか、これらの中間型もある。頭部は縦卵形。前翅の翅脈間には細かい黒褐色斑(はん)を多数散布する。後翅は透明であるが淡黄色を帯び、先端に弱く褐色斑が出る。後脚の腿節(たいせつ)には2黒帯が斜めに走り、膝部(しつぶ)は黒く、脛節(けいせつ)は橙黄(とうこう)色である。成虫は夏から秋にかけて出現する。雄は前翅に発音脈があり、後脚腿節をこれにこすり付け、ジリリリとじみな発音をする。発育には同種の他個体が影響をもち、もし大発生して個体群の密度が高まってくると、その群の個体は生理的に変化をおこし、さらに形態にも変化を及ぼし、飛翔(ひしょう)しやすい体形となる。こうした個体を群集相のバッタとよぶが、その場の食物を食べ尽くすと、次々に集団飛翔をして移動していき、ときには農作地帯に大害を与える。これがいわゆる「飛蝗(ひこう)」とよばれるものである。

 通常、一地域の草間で過ごすものは孤独相とよばれ、集団移動をしない。大発生は日本でも過去に数回あり、明治年間北海道で数回起こったものは亜種migratoriaによるもの、1986年(昭和61)種子島(たねがしま)沖の馬毛島(まげしま)で起こったものは同じ亜種によるもの、また1973年(昭和48)南大東島で起こったものは亜種manilensisによるものである。本種は、このように日本では2亜種が知られ、manilensis琉球(りゅうきゅう)諸島に分布している。

[山崎柄根]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トノサマバッタ」の意味・わかりやすい解説

トノサマバッタ
Locusta migratoria; migratory locust

直翅目バッタ科。別名ダイミョウバッタ。体長は雄 35mm,雌 50mm内外。体は太く,色彩は変化に富むが,一般に緑色型と褐色型が認められる。触角は短い。前翅は淡褐色で長く,黒褐色の小斑が散在する。後翅は淡黄色でほぼ透明,先端に黒褐色斑のあることがある。後肢腿節内面には2黒帯がある。成虫は夏から秋にかけてみられる。飛翔力は強い。単独生活をするものを孤独相 solitary phaseというが,特殊な環境下では形態的,生態的,生理的に変化し,集団をなして移動するようになる。これは移住相 gregarious phaseといわれ,いわゆる飛蝗 (ひこう) となって農作物に大害を与える。日本全土に産し,旧北区,アフリカに広く分布する。 (→直翅類 , バッタ )  

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