改訂新版 世界大百科事典 「トラノオシダ」の意味・わかりやすい解説
トラノオシダ
Asplenium incisum Thunb.
低地の路傍や山野にごくふつうのチャセンシダ科の常緑性小シダ。葉が虎の尾のようにみえることから和名がつけられた。根茎は短く斜上し,高さ10~30cmの葉を数枚叢生(そうせい)する。胞子囊をつける葉は直立して高く,つけない葉は低くひろがって根生葉のようにみえるが,はっきりした2形性とはならない。葉柄は表側が緑色で背面側が褐色になることが多く,基部に披針形,黒褐色で格子状になる鱗片をつける。羽片は深裂から羽状中裂となり,長さ1~2cm,基部で6~12mmの広さとなる。葉は草質で淡緑色。胞子囊群は葉脈に沿って少し伸びる。北海道から九州まで日本各地に生じ,北はサハリン,千島,カムチャツカ半島,大陸では朝鮮半島と,中国大陸の東北から長江以南の各省まで,さらに台湾にも分布している。クモノスシダと自然に交雑してできたのがヤマドリトラノオで,日本,中国でそれぞれ独立につくられている。
執筆者:岩槻 邦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報