日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリアゾール」の意味・わかりやすい解説
トリアゾール
とりあぞーる
triazole
環内に窒素原子3個をもつ5員環芳香族化合物の総称。1,2,3-トリアゾールと1,2,4-トリアゾールの2種類の環異性体がある。環異性体とは、同じ分子式をもっているが環のヘテロ原子の位置が異なる化合物をいう( )。トリアゾールのそれぞれの環異性体には、さらに水素原子がどの窒素原子上に結合しているかという点で異なる互変異性体の存在が可能である。1,2,3-トリアゾールでは1-位置のN上にHがある1H-1,2,3-トリアゾールと、2-位置のN上にHがある2H-1,2,3-トリアゾールの2種類の互変異性体がある( )。しかし、実際には水素原子が速やかに窒素原子上を移動するので、これらの互変異性体を別々に分けとることはできない。
1,2,3-トリアゾールは融点23℃、沸点203℃で、甘味のある結晶であり、水、エタノール(エチルアルコール)によく溶ける。医薬品などに広く応用されている。1,2,3-トリアゾールは置換アルキン(R2C≡CH)とアジド化合物(N≡N+N-R1)の[3+2]付加により合成される。この反応をフイスゲン(Huisgen)反応という。しかしこの反応は、触媒を使わないと進行が遅いうえ、異性体混合物(1,4-付加物と1,5-付加物の混合物)を生成するという欠点があった。この反応を銅(Ⅰ)触媒の存在下で行うと、反応は非常に速く進行して選択的に1,4-付加物だけを与えることが、K・B・シャープレスらにより発見された。この改良により、この反応の応用範囲が広まり、代表的なクリック反応として知られるようになった( )。さらに、ルテニウム触媒を用いる1,2,3-トリアゾールの合成法も開発された。
1,2,4-トリアゾールは融点120℃、沸点260℃の無色の針状結晶であり、水、エタノールによく溶ける。1,2,4-トリアゾールにも1H-1,2,4-トリアゾールと4H-1,2,4-トリアゾールの2種類の互変異性体がある( )。
[廣田 穰]