日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナンキョクダラ」の意味・わかりやすい解説
ナンキョクダラ
なんきょくだら / 南極鱈
cod icefish
硬骨魚綱スズキ目ノトセニア科Nototheniidaeの魚類の総称、またはそのなかの1種。和名ではタラという呼称が用いられているが、タラの仲間ではない。本科魚類は南極海とその周辺海域および南アメリカの先端海域に分布し、約12属50種が知られている。大部分の種は底生性であるが、一部は遊泳性である。南極海魚類相のほぼ68%を占める優占群である。
種のナンキョクダラBlack rockcod(もしくはYellowbelly rockcod。学名はNotothenia coriiceps)は2亜種に分けられ、一つは南極海に、ほかの一つは南極海周辺海域から南極収束線にわたって生息する。体長約62センチメートル(多くは50センチメートル)。寿命は20年あまり。体はタラ類のようにやや延長し、前方で太く後方で細い。口は大きく、頭の前端に開く。第1背びれは棘条(きょくじょう)からなり基底が短く、第2背びれと臀(しり)びれは軟条からなり基底が長い。体色は成長に伴って変化し、遊泳性の稚魚は背側が青で腹側は銀白色、未成魚は赤っぽい体色に淡色の横帯が、また頭部には暗色の横帯がある。底生生活に移行した成魚は一様に赤褐色。水深550メートル以浅(多くは200メートル以浅)、平均水温零下1.9℃の極端な冷水にすみ、藻類、軟体動物、甲殻類、多毛類などを食べる。血液中に赤血球を欠き、またグリコプロテイン(糖タンパク)とよばれる物質を含んでいるのが大きな特徴。この物質は氷点下の環境で血液が凍結するのを防ぐ働きがある。
[岡村 收・尼岡邦夫 2016年6月20日]