ニッケル水素蓄電池(読み)ニッケルスイソチクデンチ(英語表記)nickel-hydrogen battery

デジタル大辞泉 「ニッケル水素蓄電池」の意味・読み・例文・類語

ニッケルすいそ‐ちくでんち【ニッケル水素蓄電池】

ニッケル水素電池

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニッケル水素蓄電池」の意味・わかりやすい解説

ニッケル水素蓄電池
にっけるすいそちくでんち
nickel-hydrogen battery
nickel-metal hydride battery
nickel-metal hydride rechargeable cell

正極にニッケルカドミウム蓄電池と同じオキシ水酸化ニッケルNiOOH、負極にカドミウムのかわりに、水素Hを吸蔵放出することが可能な水素吸蔵合金MH、そして電解液には約40%の水酸化カリウムKOH水溶液を用いる密閉形アルカリ蓄電池。電解液の補給を必要とせず、内部が危険な高い圧力になると作動する安全弁を備えている。ニッケル水素電池、ニッケル金属水素化物蓄電池(Ni-MH電池)ともいわれる。なお、蓄電池自身を圧力容器内に収納して、30~70気圧の高圧水素ガスを用い、人工衛星など特殊な用途に使用されているものがある。しかしこれは水素吸蔵合金を使用するニッケル水素蓄電池とは別種と考えられ、高圧形ニッケル水素蓄電池とよばれて区別されている。

 水素吸蔵合金としてはランタンニッケル系のLaNi5が代表的なものである。水素を吸蔵した合金(LaNi5H6)を負極に用いて放電すると、
  LaNi5H6―→LaNi5+6H++6e-
のように反応が進む。また正極放電反応はニッケルカドミウム蓄電池と同じ
  NiOOH+H2O+e-―→Ni(OH)2+OH-
であり、蓄電池全体では
  6NiOOH+LaNi5H6―→6Ni(OH)2+LaNi5
となる。充電はこれらの逆反応である。充放電反応によりアルカリ電解液の濃度が変化しないので、電解液量は必要最小限に抑えることができる。起電力は1.32ボルト、公称電圧は1.2ボルトで、エネルギー密度は80~85Wh/kgである。

 原理的に過充電、過放電に対する保護機能がある。負極活物質の水素当量数を正極活物質のオキシ水酸化ニッケルの約1.5倍多くし、正極容量支配とすると、過充電時に正極からは酸素が、また過放電時には正極から水素が発生するが、いずれも負極の水素吸蔵合金に吸収されて水に戻るので、密閉構造とすることができる。

 ニッケル水素蓄電池では水素吸蔵合金の性能が鍵(かぎ)を握る。ランタンニッケル系ではランタンのかわりに安価なミッシュメタルMmが用いられ、MmNi5-x-y-zCoxAlyMnzのような多成分系が一般的に用いられている。アルミニウムAlとマンガンMnは水素平衡圧を下げて放電容量を向上させ、さらにアルミニウムには酸化物保護層を形成して耐酸化性と耐アルカリ性を向上させる作用がある。そしてコバルトCoは水素の吸蔵脱着に伴う体積変化を抑えて微粉化を抑制し、充放電サイクル寿命を長くすることができる。水素吸蔵合金にはAB5形(希土類系)のほかに、AB2形ラーベス合金(チタンジルコニウム系)、AB形(チタン系)、A2B形(マグネシウム系)、bcc相固溶形(バナジウム系)などがあり、高容量化を目ざして鋭意研究が続けられている。

 ニッケル水素蓄電池はニッケルカドミウム蓄電池と互換性があり、日本では1990年(平成2)に初めて商品化された。円筒形角形が生産されている。コストは高いが体積エネルギー密度がニッケルカドミウム蓄電池の約2倍あり、カドミウムによる環境汚染の懸念がなく、急速充電、高率放電が可能で、長期放置に耐えるため、従来ニッケルカドミウム蓄電池が使用されてきた携帯用、コードレス電気機器、バックアップ用、電動アシスト自転車などに用いられるなど、用途が拡大している。とくに、ハイブリッド・カー用電源として1997年にトヨタ自動車プリウスに搭載されて注目されるようになり、歴史が比較的新しいにもかかわらず、蓄電池として確固たる地位を築くに至った。2002年における全蓄電池に対するシェアは、ニッケルカドミウム蓄電池よりも多い12%である。

浅野 満]

『池田宏之助編著、武島源二・梅尾良之著『「図解」電池のはなし』(1996・日本実業出版社)』『深井有・田中一英・内田裕久著『水素と金属――次世代への材料学』(1998・内田老鶴圃)』『日本電池株式会社編『最新実用二次電池 その選び方と使い方』(1999・日刊工業新聞社)』『小久見善八編著『電気化学』(2000・オーム社)』『電気化学会編『電気化学便覧』(2000・丸善)』『電池便覧編集委員会編『電池便覧』(2001・丸善)』『『新型電池の材料化学 季刊化学総説No.49』(2001・学会出版センター)』『『二次電池の開発と材料』普及版(2002・シーエムシー出版)』

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