日本大百科全書(ニッポニカ) 「のっぺい汁」の意味・わかりやすい解説
のっぺい汁
のっぺいじる
能平、濃平の文字を使うこともある。小麦粉か葛粉(くずこ)を加えてどろりとさせた野菜汁である。のっぺい汁は各地にあるが、奈良のものが古いといわれている。春日(かすが)若宮の祭りの日(12月17日)につくっている。温かい料理であるから、一般に寒い季節に多くつくる。材料はサトイモ400グラム、油揚げ10枚、ダイコン1本、ニンジン1本。サトイモは皮をむき、油揚げは大きめに切っておく。ダイコンはえぼし切り、ゴボウはささがき、シイタケは水にもどして細く切る。すべての材料を鍋(なべ)に入れ、かぶるくらいの煮だし汁を加えて煮る。柔らかくなったら砂糖、しょうゆで調味する。煮ているときに浮くあくは取り除いたほうがよい。島根県津和野地方では、新年の宴会にはのっぺい汁をかならずつくる。江戸初期の『料理物語』には「鴨(かも)を炒(い)り鳥の如(ごと)く作り、だし、たまりにて煮る。煮え立ち候時加減吸合せ、饂飩(うどん)粉を出汁(だし)にて溶き、ねばる程さし云々」とある。古いのっぺい汁には鳥を用いたらしい。
[多田鉄之助]