煮出汁(にだしじる)の略で,だし汁とも呼ぶ。動植物食品の旨味(うまみ)成分を水に溶出させたもので,塩,みそ,しょうゆ,酢,みりん,砂糖などの調味料と合わせ用いて,料理の味を向上させる役割をもつ。また,すでに調味料を加えたそばのつけ汁やなべ料理の割下(わりした)をこの名で呼ぶこともある。日本料理のだしの材料としては鰹節(かつおぶし)とコンブが最も多く用いられるが,鰹節の旨味の主成分はイノシン酸ナトリウム,コンブのそれはグルタミン酸ナトリウムである。また,シイタケのそれはグアニル酸ナトリウムであるという。だし汁の語が見られるようになるのは鎌倉後期ごろの成立とされる《厨事類記》あたりからであるが,実質的には古くから堅魚煎汁(かつおいろり)などが使用されていた。堅魚煎汁は養老賦役令に見えるが,カツオを煮て〈煮堅魚〉をつくるさいのゆで汁を煮つめたものだったようである。現在だしをとる材料としては,動物性のものでは鰹節,サバ節などのほか,イワシなどの煮干し,ハゼ,キス,フナなどの焼干し,魚のあら,貝類の素干し,するめ,ニワトリのがら,ウシ,ブタの肉や骨などがあり,植物性のものではコンブ,干しシイタケ,かんぴょうなどが用いられる。植物性の材料のみを用いてとるだしは精進だしと呼ばれ,《料理物語》(1643)では,かんぴょう,コンブ,干しタデ,もち米(袋に入れて),干しカブラ,干しダイコンなどを取り合わせて使うとしている。
執筆者:鈴木 晋一
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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