日本料理の重要な四本柱料理の一つ。古くは、あつもの(羹)ともいった。一汁三菜といい、汁、刺身、焼き物、煮物の四つが大柱で、ほかの料理はその間に入る添え物である。汁は大別して澄まし汁と濁り汁とになるが、酒を相手のときは吸い物といい、飯のときには汁といういい方をすることもある。
[多田鉄之助]
汁物には三つの要素があり、これが調和しないとうま味が出てこない。まず、椀種(わんだね)に適する材料を選ぶことが肝要である。タイ、アマダイ、ヒラメ、エビ、アナゴ、シラウオ、ハマグリ、カキ、アサリ、シジミ、鶏卵、鶏肉、豚肉のほかにも多くの材料がある。次に重要なのは椀づまである。これは植物性の材料で、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ミツバ、イモ、ホウレンソウ、フキ、カイワレ菜、キヌサヤエンドウ、セリ、ウド、タケノコ、シイタケ、マツタケ、シメジ、ワカメなど数多くある。もう一つの要素は吸い口である。これはごく少量だが、汁物の味は吸い口によってぐんと向上する。代表的なものには、木の芽、花ザンショウ、ショウガ、ワサビ、ユズ、スダチ、カボス、レモン、からし、トウガラシ、こしょう、芽ネギ、ごま、のりなどがある。椀種と椀づまの二つは「差し入れ」と「煮込み」とに分類できる。「差し入れ」はまえもってつくっておくもので、「煮込み」は汁に入れてから煮るものである。差し入れ物は、塩をしてしばらくしてゆでるもの、吉野打ち(葛粉(くずこ)かかたくり粉をまぶす)をするもの、蒸して使うもの(たとえば卵豆腐など)、揚げて使うもの、熱湯を注いで油抜きする油揚げなどがある。みそ汁には煮込み物が多く使われる。
[多田鉄之助]
澄まし仕立ての調味は昆布とかつお節のだし汁を主として、塩で味つけしてしょうゆを少々加える。潮(うしお)仕立ての汁は、煮立てて材料から出るうま味を利用する。これにはタイ、スズキ、ハマグリなどを用いる。すっぽん仕立てはその応用種である。濁り汁では代表的なものがみそ仕立てであり、赤みそと白みそそれぞれの用い方、両者を混ぜ合わせた袱紗(ふくさ)仕立てがある。合わせみそは2、3種のみそを合わせて用いる。利久(りきゅう)仕立ては、白ごまをすって加えるみそ汁である。鯉(こい)こくはみそ仕立てで、コイを筒切りにして長時間煮込む。だいこんおろしを加えたのをみぞれ汁、おからを加えると卯(う)の花汁、魚のすり身を入れたすり流し汁、酒粕(さけかす)を加えた粕汁、納豆を加える大納言(だいなごん)汁、ナガイモをすって用いるとろろ汁など、汁物は豊富にある。
[多田鉄之助]
日本における汁料理の総称。大別してみそ仕立てとすまし仕立てがあった。古くは熱き物の意で〈あつもの〉と呼び,〈羹〉の字をあてた。平安時代以後,汁,汁物のほか,熟汁,温汁,冷汁(ひやしる)(寒汁)などが見られ,室町時代からは吸物の称も出現した。現代では汁と吸物の区別は,人によって解釈も区々であり,事実上は同義語のように使われている。しかし,近世では伊勢貞丈が〈汁物(しるのもの)と云は飯にそへたる汁の事也〉(《貞丈雑記》)といっているように,汁は飯を食べるとき他の菜(さい)といっしょに供されるものをいった。吸物の方は,《守貞漫稿》が〈今制吸物ニ二品アリ,味噌吸物ト澄シ吸物也,是ハ飯ニ合セス酒肴ニ用之〉というように,食事終了ののち酒やさかな(肴)とともに供されるものであった。〈吸物出ざれば酒をすすめず,吸物に手の付候時,酒と盃一度に出す也。酒一献の時取肴出す也〉(《料理伝》)というのが正式の供応の決りであった。
近世の献立では,食事と酒は時系列的に截然と分かれていた。食事の献立は,膳三つの場合は三汁八菜・九菜・十菜・十一菜の序列があり,二の膳までの場合は二汁七菜・六菜・五菜の別があるといった風であったが,飯が終わって酒に入ってからの吸物やさかなの類はなん品供されても,なん汁なん菜の称に加算されることはない。
汁と吸物の仕様の相違はほとんど認められない。すまし仕立ての汁もあれば,みそ仕立ての吸物もあった。ただ,吸物は酒との調和をはかり,汁より“かろやか”に調味するのが要諦とされた。すまし汁は,しょうゆが普及した近世中期からはしょうゆ仕立てにすることが多くなったが,それ以前はみそを溶いた汁の上澄みや,みそだまりなどが用いられた。いわゆる〈二の汁〉は,〈一の汁〉とのふりあい上すまし仕立てにされることが多く,吸物は〈二の汁の軽きもの〉にするのがこつとも説かれた。こうしたことから,吸物はすまし汁に限定されるかのような現代的理解に到達したものと考えられる。
執筆者:平田 萬里遠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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