クズの根から製造したデンプン。各種デンプンのうち、もっとも良質とされている。古代、大和(やまと)朝廷から異民族視されていた吉野(奈良県)の国栖(くず)に産するものが上品とされ、吉野葛の名がある。またクズの語自体、国栖に由来するとも説かれる。
秋の終わりから初春にかけて発芽前に根を掘り起こし、よく水洗いして15センチメートルくらいに切ったものを平石の上で木槌(きづち)で打って砕く。粉砕機を用いることもある。これをざるに入れて水槽の中でかき混ぜ、デンプンを洗い出して、かすとデンプンに分ける。デンプン液は、細かい繊維などを除くため、さらに布袋に入れて漉(こ)す。静置するとデンプンが沈殿するので、上澄み液を捨て、さらに水を加えてかき回し静置する。デンプンが純白になるまで水さらしを繰り返す。十分さらしたデンプンは、小穴のあいた板をはめ木綿布を敷いた桶(おけ)にあけて水分を除き、適当な大きさに砕いて乾燥する。したがって、葛粉は不ぞろいの塊状をしている。奈良県の吉野葛のほか、福岡県の筑前(ちくぜん)葛、三重県の伊勢(いせ)葛、福井県の若狭(わかさ)葛が有名である。
葛粉を少量の水で溶き、これに熱湯を加えた葛湯は、病人や小児の栄養食として昔から重用されている。葛餅(くずもち)、葛ちまき、葛そうめんなどは、昔、補食として用いられた名残(なごり)である。また漢方のかぜ薬である葛根湯(かっこんとう)の主成分はこの葛根である。葛を用いた料理には名産地の名にちなみ「吉野」をつけて、葛粉で濃度をつけた汁物は吉野汁、煮汁に葛粉で濃度をつけた煮物は吉野煮とよぶ。菓子では、葛桜、葛まんじゅう、葛切り、葛ちまきなどの原料として用いられている。葛粉を使った地方菓子としては京都の葛切りが有名である。葛を煮て麺(めん)のように切り、冷たくして蜜(みつ)をつけて食べる。奈良の吉野には、餡(あん)を葛粉で固めた葛の香りの高い羊かんがある。なお、葛粉は生産が少なく高価なため、最近、市販の葛粉と称するものは純粋のものが少なく、多くはサツマイモデンプンを混ぜてある。
[河野友美・大滝 緑]
クズの根に含まれるデンプンを精製したもの。秋から冬の間に根を掘り出してつき砕き,布袋に入れて水中にデンプンをもみ出し,このデンプンをさらに何回も水にさらしたのち日干しするのが在来の製法であったが,現在では磨砕,遠心分離,水洗,脱水,乾燥して製品とする。小さく砕いても,角ばった形に割れるものが良品である。古くから奈良県吉野産のものが吉野葛の名で知られたが,最近では吉野産のものはきわめて少なく,福岡,三重,福井などが主産地である。料理や菓子に多用され,料理の場合は吉野仕立てと呼ぶことが多い。菓子では葛餅,葛桜,葛切り,葛ちまきなどのほか,葛湯に用いる。なお,江戸時代から吉野葛は久助(きゆうすけ)葛,久助と異称されたが,そこからさらにクズの音を屑に転用し,現在でもできそこないや売残りの菓子などを久助と呼ぶことがある。
執筆者:平野 雄一郎
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…世界の温暖な地域に広く導入され,野生化しており,特に1930年代に北アメリカ南部に土壌侵食防止のために入れられたものは,重大な雑草になったので有名である(北アメリカやヨーロッパへの最初の導入は19世紀末)。時には30kgをこえるという塊根には,約20%のデンプンを含み,調理して食用にされることもあるが,日本では葛粉(くずこ)として有名なデンプン資源植物であった。冬季に採取した塊根をたたきつぶして水にさらし,デンプンを得る。…
※「葛粉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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