日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハナビラウオ」の意味・わかりやすい解説
ハナビラウオ
はなびらうお / 花弁魚
blackrag
[学] Psenes pellucidus
硬骨魚綱スズキ目エボシダイ科に属する海水魚。釧路(くしろ)から土佐湾にかけての太平洋沿岸、新潟県佐渡島(さどがしま)から五島(ごとう)列島にかけての日本海沿岸、東シナ海、台湾南部など太平洋、インド洋、大西洋の温帯から熱帯の海域に広く分布する。体は柔らかく、成魚では長楕円(ちょうだえん)形で側扁(そくへん)する。体高は成長するに伴って低くなる。両腹びれの間から肛門(こうもん)にかけて深い溝がある。吻(ふん)は丸く、吻長は眼径よりも長い。上下両顎(りょうがく)に細かい歯が1列に並び、上顎では細くてとがり、内側に湾曲する。下顎ではやや幅広で、密接して並び、側面に多くの上向きの鋸歯(きょし)がある。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨には歯がない。頭部背面の鱗(うろこ)は両眼を結ぶ線まで達しない。側線は体の背縁と並行して走り、鱗はきわめて小さく、側線鱗(りん)は113~145枚。第1背びれは9~12棘(きょく)、第2背びれは1~2棘27~32軟条、臀(しり)びれは2~3棘26~35軟条。体は黒褐色で、各ひれは黒い。幼魚では体は半透明で、背びれと臀びれに2本の暗色の縦帯がある。稚魚は吻部、上下両顎、頭部背面、体の前部に黒色素胞(こくしきそほう)が密に分布し、尾部では4本の不明瞭(ふめいりょう)な横帯がある。第1背びれと腹びれの全域、第2背びれの上半分、そして尾びれは後ろ半分が黒い。成魚では普通は大陸棚斜面域の底に生息するが、水深700メートルくらいからとれることもある。稚魚や幼魚は表層にすみ、ユウレイクラゲ、イボクラゲ、アカクラゲなどの触手の間を遊泳している。流れ藻などにつくこともある。全長50センチメートルに達する。底引網でまれに漁獲されるが、市場に出ることはない。
本種はスジハナビラウオ属に属するが、同属には本種以外に、日本近海ではスジハナビラウオ、クラゲウオおよびシマハナビラウオP. maculatusが知られている。
[鈴木 清・尼岡邦夫 2023年11月17日]