ハバチ(読み)はばち(英語表記)sawfly

翻訳|sawfly

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハバチ」の意味・わかりやすい解説

ハバチ
はばち / 葉蜂
sawfly

昆虫綱膜翅(まくし)目広腰亜目の大部分を占める数科の総称。広腰亜目にはナギナタハバチ科、ヒラタハバチ科、クシヒゲヒラタハバチ科、クキバチモドキ科、クビナガキバチ科、キバチ科、クキバチ科、ヤドリキバチ科、ハバチ科、マツハバチ科、ミフシハバチ科、ヨフシハバチ科、コンボウハバチ科、ペルガハバチ科の14科が含まれ、このうち、語尾に「ハバチ」とつくものを総称してハバチといっている。これらの科のうち、クシヒゲヒラタハバチ科、クキバチモドキ科、ペルガハバチ科は日本には産しない。

 広腰亜目の幼虫は、ヤドリキバチ科を除いてすべて食植物性。ハバチ類の英名sawは鋸(のこぎり)のことで、それに似た産卵管をもつ。雌はこれで植物組織を切り、ポケット状の傷をつくり、その中に産卵する。卵は植物組織から水分を吸収しながら発育し、孵化(ふか)する。幼虫はイモムシ形をしており、鱗翅(りんし)目の幼虫に似ているが、単眼の数、腹脚の数と形などで区別は容易である。一般に単性生殖で雄のみを生じる。

 ハバチ科Tenthredinidaeは、広腰亜目中最大の科で、世界に5000種以上知られている。分布の中心は北半球で、とくに寒帯では優占種となる。熱帯平地にはきわめて少ない。日本には1000種ほど産すると思われるが、現在記録されているのは500種たらずで、やや寒冷地のほうが種類が多いように思われる。大きさは2.5~20ミリメートルぐらいで、円筒形のものが普通である。色彩は黒いものが多いが、黄色や緑色など美しい色をしたものもある。触角は通常9節で、少ないものと多いものが少数ある。翅脈膜翅目の原始型と考えられている。成虫日当りのよい所を好んで飛び、曇天にはほとんど活動しない。大形種は、ほかの小昆虫などを捕食するものが多いが、花蜜(かみつ)や花粉に頼っているものや、摂食をまったくせずに、羽化後まもなく交尾産卵して死亡するものもある。老熟幼虫は通常土中に潜り、繭をつくり前蛹態(ぜんようたい)で越冬する。1世代1年を要するものが大部分で、その幼虫期間は2週間程度の短いものから、6か月以上に及ぶ長いものまである。年2世代のものは春秋2回出現するものが普通であるが、春にだけ2世代繰り返すものがある。多化性のものはわりあい少ない。幼虫の生活は自由生活のものが大部分であるが、葉に潜るもの、茎に穿孔(せんこう)するもの、虫こぶをつくるものなどがある。食草はシダ類から顕花植物のほとんどの科にわたるので、農林害虫も多い。多くは恒常的発生でなく、突然大発生をする。アブラナ科野菜の害虫であるカブラハバチAthalia rosae ruficornisやニホンカブラハバチA. japonicaカラマツを加害するカラマツハラアカハバチPristiphora erichsoniカラマツアカハバチPachynematus itoiなどが有名である。

 ナギナタハバチ科Xyelidaeは、膜翅目のもっとも原始的な形といわれ、世界に106種が記載されているが、そのうち60種が化石であり、日本には7種が知られている。5ミリメートル以下の小形種が大部分を占め、北半球にだけ分布する。触角第3節が長大で、第4節以下は糸状であること、前翅の径室の横脈が2本以上あることなどが特徴である。幼虫は各腹節に腹脚をもち、触角は6節であり、マツ属の雄花またはモミ属の新梢(しんしょう)に穿孔するものが大部分で、ごく少数が自由生活である。蛹(さなぎ)は羽化前に活発に動く。マダラナギナタハバチXyela juliiがもっとも普通にみられ、幼虫はアカマツの雄花に穿孔する。

 ヨフシハバチ科Blasticotomidaeは、触角が4節である属と、3節の属とがある。前翅第1中室が有柄である特異な翅脈をもつ。幼虫はシダ類の葉柄に穿孔し、入口に径3センチメートルぐらいの泡球を生じる。世界に7種知られ、うち1種は北アメリカ産の化石で、現存種はおもに東アジアに分布する。

 ペルガハバチ科Pergidaeは、オーストラリア、中央アメリカ、南アメリカに分布する科で、オーストラリアではユーカリを加害する。雌が卵や若い幼虫を保護し、幼虫は集団で生活するものがあることで有名である。

[奥谷禎一]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ハバチ」の意味・わかりやすい解説

ハバチ (葉蜂)
sawfly

膜翅目ハバチ上科Tenthredinoidea,ナギナタハバチ科Xyelidae,ヒラタハバチ科Pamphiliidaeに属する昆虫の総称。キバチ類やクキバチ類のハチとともに,胸部と腹部の間がくびれておらず,原始的なハチと見られている。全世界に約5000種知られており,温帯域に多い。成虫は春から夏にかけて出現し,年1世代のものが多いが,秋に出現するものもある。多くの種類は,繭の中で前蛹態(ぜんようたい)で越冬するが,卵越冬の種類もある。成虫は葉の表面の絨毛(じゆうもう)や花粉などを食するが,他の昆虫を捕食するものもいる。この場合,前者の雌の卵巣には成熟卵のつまっていることが多いが,後者の卵巣には成熟卵が少なく,卵小管内には異なった発育段階の未熟卵細胞が見られる。幼虫は鱗翅類の幼虫に似るが,腹脚が腹部第2節よりある点で区別できる。食葉性であるが,葉をまくもの,葉肉内に潜孔するもの,虫こぶをつくるもの,茎内に穿孔(せんこう)するものなど,生活様式は多岐にわたる。幼虫が食葉性であるため,農林業や園芸上,有害な種類が多い。カラマツの葉を食害するカラマツハラアカハバチやカラマツアカハバチ,マツ類を加害するマツノミドリハバチなどのマツハバチ科のハチ類,ハクサイなどを食害するカブラハバチ,ダイズを加害するダイズハバチなどをあげることができよう。アメリカでは,サツマイモを加害するサツマイモハバチが知られているが,スベリヒユハバチを利用して,畑地害草のスベリヒユの防除に成功したという報告もある。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ハバチ」の意味・わかりやすい解説

ハバチ

膜翅(まくし)目ハバチ科とその近縁の数科の総称。原始的なハチ類で腹部の基部が全くくびれない。またキバチ類に似るが,短太で,雌は原則として産卵管がない。幼虫は植物の葉を食べ,木の幹や茎には食い入らず,一見チョウやガの幼虫に似るが,腹脚の数が異なる。土中で蛹化(ようか)。全世界に約5000種あり,北半球の温帯に種類が多い。カブラハバチ,チュウレンジバチなど農林害虫も多い。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハバチ」の意味・わかりやすい解説

ハバチ
saw-fly; saw-wasp

膜翅目広腰亜目ハバチ群に属する昆虫の総称。幼虫は鱗翅類のそれに似て葉食性。成虫の産卵管はのこぎり状で,通常これで植物の葉や茎に穿孔してその中に産卵する。ナギナタハバチ科,ヒラタハバチ科,ヨフシハバチ科,ハバチ科,マツハバチ科,コンボウハバチ科,ミフシハバチ科などを含むが,大多数の種はハバチ科に属する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のハバチの言及

【共存同衆】より

…その起源は1873年9月にロンドンの日本人留学生によって結成された日本学生会にある。日本学生会の中心人物は小野と馬場辰猪で,外国にあっても出身藩意識から抜けだせずに封建時代の感情を強くもっている日本人留学生に,国際社会における日本の現状を認識させ,親睦と相互扶助を通して留学生としての使命を自覚させるのがその目的であった。小野の帰国によって同趣旨の会が日本にもできた。…

【自由新聞】より

…これに対抗して,自由党が新たに日刊新聞として発行したのが,《自由新聞》である。株式会社組織として同志から資金を募集し,編集・発行には社長の板垣退助以下馬場辰猪,中江兆民,田口卯吉,末広鉄腸(重恭)など自由党の有力活動家,理論家が当たった。藩閥政府や政商,改進党などを攻撃し,自由民権運動を鼓吹する紙面づくりで自由党の支持者に広く読まれた。…

※「ハバチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android