日本の代表的な二葉松の1種で,木肌が明るい赤褐色を呈する。枝や葉の感じからメマツ(雌松)ともいう。マツ科。高さは30m,ときに50mに達し,幹の樹皮は亀甲(きつこう)状に割れる。冬芽は赤褐色。針葉は長さ8~12cm,横断面では下表皮に接して3~9個の樹脂道がある。春5月頃,新枝(みどり)の先端に1~3個の赤紅色の雌球花がつく。雄花は別のみどりの下部の多数の鱗片葉の腋(えき)に1個ずつつき,多量の花粉を空中に放出する。雌球花は受粉後1年目の翌春に受精し,その秋に成熟した球果は下向きとなる。球果の鱗片は先端が肥厚し,四~五角形の外面露出部の中央にへそがある。鱗片の内側に長い翼のある種子が2個ずつついている。青森県から九州屋久島までと,朝鮮半島の温帯・暖帯に分布し,中国の一部にもある。暖地では内陸部にも多いが,北の方では漸次海岸近くにも生育し,天橋立ではクロマツと混生し,松島(宮城県)ではほとんどアカマツだけとなる。両種の混生するところでは自然に交雑が行われ,形態的に互いに区別のつかない個体が多くなる。このような天然雑種をまとめてアイノコマツまたはアカクロマツという。また吐噶喇(とから)列島以南の琉球諸島には代わってリュウキュウアカマツP.luchuensis Mayrがある。
アカマツは土壌の乾燥・瘠悪(せきあく)条件に耐えるので,尾根,荒廃地あるいは砂土地や堤防などの植栽に用いられ,またこのような土地でしばしば天然の純林をなす。そのためアカマツ林の増えるのはそれだけやせ地が多くなることに通じる。アカマツは幹が通常多少は曲がっているが,中には通直な幹の木肌の美しい林が見られるところもあり,青森県上北郡の甲地(かつち)松,浅間山ろくの霧上(きりうえ)松,霧島山の霧島松などのように地域名を冠して呼ばれる。このように有名アカマツ林業地や景勝地の重要な樹種であるアカマツが,近年とくに一般家庭で薪炭材が使われなくなって以降,材線虫病のまんえんに伴って,高標高域を除く各地で壊滅的な打撃を受けている。アカマツの木材は針葉樹材のうちでは強度,比重ともに大きい方で,一級建築材としてはり・桁・床板などに利用されるほか,特に心材は腐りにくいので造船・土木用材に供される。パルプ原木としての使用量も少なくない。昔はその松炭が軽くて火力が強いので鍛冶屋炭として用いられ,また農山村ではやに分の多い部分とくに古い根株を細く割って灯火の用に供された。第2次世界大戦中は根株から松根油を乾留してエンジンの燃料とした。アカマツはクロマツに比して女性的な印象を与えるので,門松や門冠(もんかぶり)松には適しないが,庭園樹としては広く植えられる。特に幹が根際から数本に分かれて広がり,全体が傘形になる美(うつくし)松や多行(たぎよう)松は有名である。前者は滋賀県甲賀市の美松山に自生があり,天然記念物となっている。マツ林中でもアカマツの林にはマツタケが生えるのでアカマツ地帯にはマツタケの産地が多い。
→マツ
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
マツ科(分子系統に基づく分類:マツ科)の常緑針葉高木。大きいものは高さ50メートル、直径2.5メートルにも達する。樹皮は赤褐色または黄赤褐色。老樹では厚く亀甲(きっこう)状に裂ける。葉は短枝上に2枚ずつつき針状で細長く、7~12センチメートルあり、縁辺に微細な歯牙(しが)がある。樹脂道は3~9個あり、下表皮に接して存在する特性がある。雌雄同株、4月に開花する。雄花は新枝の下部に多数つき、円筒形で帯緑淡黄色。雌花は新枝の頂に2~3個つき、紅紫色。球果は卵状円錐(えんすい)形で、長さ3~5センチメートル、径2.5~3.5センチメートルあり、翌年の10月ころ淡黄褐色に成熟する。種子は倒卵状菱(ひし)形で、種子の約3倍の翼がある。日本、朝鮮、中国東北部に広く分布し、日本の北限地は北海道苫小牧(とまこまい)市の樽前(たるまえ)山で、南限地は鹿児島県屋久(やく)島である。
天然品種にウツクシマツ(タギョウショウ)、ミツバアカマツがあり、ほかに二十数種の園芸品種がある。クロマツとの雑種アイグロマツ(アカクロマツ)は、本州、四国、九州に分布する。木は庭園、公園、盆栽、門松に常用し、松脂(まつやに)をとるのにも用いる。アカマツ林は防風、土砂止め、飛砂防止、風致林に利用する。またマツタケ林にもなる。材は帯黄淡褐色で、建築、土木、船舶、合板、パルプ、器具、楽器、包装など広く利用する。
学名の種小名densifloraは「密に花がある」という意味で、和名は幹の色による。別名メマツはオマツ(クロマツ)に比べ、柔らかく女性的な感じがすることによる。
[林 弥栄 2018年5月21日]
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