日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハベル」の意味・わかりやすい解説
ハベル
はべる
Václav Havel
(1936―2011)
チェコの劇作家、政治家。プラハの資本家の家に生まれる。社会主義体制下ではブルジョア出身が不利となり、苦学して1957年にプラハ経済工科大学を卒業。義務兵役後、いろいろな劇場の協力者として働き、1960年から「欄干劇場」の文芸部員として活躍。第一作『ガーデン・パーティ』は1963年にO・クレイチャの演出で初演された。現実を直視した、風刺のきいた、グロテスクな要素をもったこの作品は、当時のチェコスロバキアのアンチ・ドラマとして注目を浴びた。1968年以後、国内での創作発表は禁止されたが国内にとどまった。その後の作品は西側で発表された。おもな作品は『調査官』(1966)、『審問』(1975)、『ベルニサージュ』(1975)、『ラルゴ・デゾラート』(1984)、『誘惑』(1986)など。
[村井志摩子]
政治活動
1968年のチェコ事件、いわゆる「プラハの春」では非共産党員作家組織の議長として民主化運動にかかわり、以降、一貫して共産党支配に抵抗、反体制派知識人として闘い、ワルシャワ条約軍の武力介入後、作品の発表と上演を禁止された。1977年に反体制運動の人権擁護グループ「憲章77」の結成に参加。1979年には国家転覆罪で逮捕され、1983年まで獄中生活を強いられた。1989年の「ビロード革命」で在野団体の連合体「市民フォーラム」が結成されると中心的存在になり、同年12月、1948年に共産党政権が成立して以来初の非共産党員として、チェコスロバキア大統領に就任した。1992年7月スロバキアで民族主義が台頭し、連邦分離の流れが決定的となるなかで大統領を辞任。1993年1月チェコとスロバキアの二つの共和国に分離し、2月にハベルはチェコの初代大統領に就任した。1998年再選。2003年2月任期満了により退任。1989年のパルメ平和賞をはじめ、多くの賞を受賞している。
[編集部]
『村井志摩子訳『ガーデン・パーティ』(『現代チェコ戯曲集』所収・1969・思潮社)』▽『ハベル著、千野栄一・飯島周編訳『ビロード革命のこころ――チェコスロバキア大統領は訴える』(1990・岩波書店)』▽『ハヴェル著、佐々木和子訳『ハヴェル自伝――抵抗の半生』(1991・岩波書店)』▽『ハヴェル著、飯島周訳『プラハ獄中記 完訳――妻オルガへの手紙』(1995・恒文社)』