改訂新版 世界大百科事典 「ハルゼミ」の意味・わかりやすい解説
ハルゼミ (春蟬)
Terpnosia vacua
半翅目セミ科の昆虫。マツに限ってすむことからマツゼミ,マツムシとも呼ばれる。その名のとおり,日本本土ではもっとも早く,春に出現する。小型のセミで,体長は雄26~31mm,雌22~26mm,前翅の開張は61~67mm。体は,雄が一様に黒色なのに対し,雌は褐色の地に黒紋をもつ。翅は透明で,脈は黒色~褐色。雄の腹部は細長く,共鳴室が広く,腹端には白粉をつける。雌の産卵管は腹端から突出する。本州,四国,九州,中国に分布し,おもに平地の松林に見られる。成虫は5~6月に出現し,晴れた日,横枝に止まって合唱する。雄は鳴く前後,枝上をよく歩き回る。
同属のエゾハルゼミT.nigricostaはわずかに大きく,体長は雄30~37mm,雌23~26mm,前翅の開張は72~86mm。胸背には緑色,褐色,黒色の斑紋があり,腹部は橙褐色。雄の腹部はさらに発達して長く,雌の産卵管は腹端からわずかに突出する。翅は細長く,透明。北海道~九州に分布し,ブナ帯にすみ,6月ころミョーキン,ミョーキン……ケケケ……と奇妙な声で鳴く。また,近縁のヒメハルゼミEuterpnosia chibensisは,体は細長く,緑褐色の地に黒紋をもつ。体長23~30mm,前翅の開張65~72mm。雄の腹部第4節の両側には瘤状の突起があり,雌の産卵管は長く突出する。おもに7月に現れ,シイ,カシ類にすみ,雄は小枝に止まって大合唱をする。本州から沖縄本島にかけて分布し,本州での産地は局所的で,何ヵ所かでは天然記念物として保護されている。
→セミ
執筆者:林 正美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報