ハルモニア(その他表記)Harmonia

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハルモニア」の意味・わかりやすい解説

ハルモニア
Harmonia

ギリシア神話の女神。アレスアフロディテの娘。女神でありながら,ゼウスの命令で人間の英雄カドモスと結婚し,その婚礼の式はすべての神々が臨席し盛大に祝われたが,そのおりアテナヘファイストスから彼女に贈られた衣と首飾りがテーベ王家宝物として伝承され,さまざまな不幸の原因となったという。ディオニュソスの母セメレをはじめ,アウトノエ,イノ,アガウェらの娘と息子ポリュドロスを生んだが,晩年にはカドモスとともに彼の創建したテーベを離れてイリュリアに移住し,最後には夫ともどもへびに変えられ,楽園エリュシオンの野に住まわされることになったという。

ハルモニア
harmonia

ギリシア語で「調和」の意。この観念を哲学史に導入し,のちのギリシア哲学に大きな影響を与えたのはピタゴラスヘラクレイトスである。前者は宇宙 kosmosは調和と秩序 taxisを本質とし,その原理を数とし,数学的研究を深め,後者は生成消滅の過程における対立項 (生と死,冷と熱など) の背後には世界の理法 logosとしての調和があるとみて,それを見抜くことに真の知があるとした。プラトンアリストテレスにおいては調和の概念は中心的ではないが,教育における音楽の重視などにもみられるように,みずからのうちに対立する諸傾向を含む霊魂の調和が主要なテーマであった。

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世界大百科事典(旧版)内のハルモニアの言及

【アレス】より

…また女武者から成るアマゾン族の祖とされる。ホメロスの《オデュッセイア》には,女神アフロディテとの密通の現場を捕らえられる有名な神話があるが,一説では彼はアフロディテの夫で,彼女とのあいだにテーバイの建設者カドモスの妻となったハルモニアHarmoniaをもうけた。アテナイの最高法廷アレオパゴス(アレイオス・パゴス,〈アレスの丘〉の意)の名は,かつて彼がここで裁きを受けたことに由来するという。…

【カドモス】より

…この5人はスパルトイSpartoi(〈播かれた男たち〉の意)と呼ばれ,のちのテーバイ貴族の祖となった。こうして町の繁栄の基礎を固めたあと,彼はアレスとアフロディテの娘ハルモニアHarmoniaを妻に迎え,彼女に長衣と首飾を贈ったが,この贈物は将来のテーバイおよびカドモス一族にさまざまのわざわいをもたらすもととなった。のち彼は王位を孫のペンテウスに譲り,妻を伴って赴いたイリュリアの地で,夫婦ともにゼウスによって蛇に変えられ,エリュシオンの野に送られたという。…

【ギリシア音楽】より

…後代の伝承ではピタゴラスは協和音の数比を発見したとされ,さらに前5世紀のフィロラオスや前4世紀のアルキュタスなどピタゴラス派の理論家は諸音を数比によって基礎づける理論を伝えている。これに対し前4世紀後半にアリストクセノスは《ハルモニア基礎論》を書いて感覚を重視した実践的な理論を打ち出しピタゴラス派に対抗した。その後ピタゴラス派の理論はユークリッド(エウクレイデス,前4~前3世紀)やニコマコスNikomachos(2世紀)に,アリストクセノスの理論はクレオネイデスKleoneidēs(2世紀)などに継承されていくが,2世紀のプトレマイオスは《ハルモニア論》において両派を折衷する形で独自の理論を打ち出し,それがボエティウスに伝わった。…

【調和】より

…事物や事象の全体的な均衡の美を表す観念で,古代ギリシアに淵源する。ギリシア語ハルモニアharmoniaは元来,大工仕事で建材の各部をたがいに嚙み合わせて,ぴったり接合することを意味した。その後比喩的に転用されて,一致,協力,和合などの意味を持つようになった。…

※「ハルモニア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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