カドモス(読み)かどもす(英語表記)Kadmos

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カドモス」の意味・わかりやすい解説

カドモス
Kadmos

テーベ市の創建者として名高いギリシア神話の英雄。フェニキア王アゲノルの息子で,ゼウスにさらわれて行方不明になった姉妹のエウロペの捜索を父に命令されて国を離れ,デルフォイの神託に従い,テーベの建てられる場所に来た。そこでアレスの子の竜に従者たちを食い殺されると,この怪物を退治し,アテナに教えられたとおり,その死体の口から歯を取って耕した地面にまいて,スパルトイと呼ばれる武装した戦士たちを生じさせて,彼らを互いに殺し合せ,生残った5人を家来にして,テーベの前身であるカドメイア市を建てた。そして8年間アレスの下僕となって,この神の怒りをやわらげ,そのあとでゼウスの計らいにより,アレスとアフロディテの娘ハルモニアと結婚し,アガウェ,イノ,アウトノエの3女と息子ポリュドロスをもうけたが,一家に不幸が絶えないため,ハルモニアと一緒にカドメイアを捨ててイリュリアに移住してそこの王となり,最後には夫妻そろって大蛇に姿を変えられ,楽園エリュシオンの野に住わせられたという。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カドモス」の意味・わかりやすい解説

カドモス
かどもす
Kadmos

ギリシア神話で、テバイ(テーベ)の都の創建者、また初代の王。フェニキアのティロス(またはシドン)の王アゲノルとテレファッサの息子。姉妹のエウロペがゼウスにかどわかされたとき、父の命令で母親を連れてその捜索の旅に出、トラキアに至るが、のちにデルフォイの神託に従って1頭の牝牛(めうし)の後を追い、テバイの地へやってきた。カドモスはここでアテネ女神に犠牲を捧(ささ)げるため従者にアレスの泉の水をくみにやらせるが、泉を守る竜が従者を殺したためにこれと闘って倒し、その歯を大地に播(ま)いた。するとその歯から武装した戦士が生え出たので、その中に石を投げ込んで同士討ちをさせ、最後に残った5人に協力させてテバイの都を建設した。テバイ王となった彼はアレスの娘ハルモニアと結婚し、アウトノエ、イノ、アガウエ、セメレらの娘と息子ポリドロスを得た。のちに王位を孫のペンテウスに譲ってイリリアへ隠退し、最後には妻とともに大蛇と化して極楽浄土(エリシオン)へ送られた。彼は文字をギリシアに持ち込み、文明開化の礎(いしずえ)を築いた人物とされる。

[丹下和彦]

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