カドモス(英語表記)Kadmos

デジタル大辞泉 「カドモス」の意味・読み・例文・類語

カドモス(Kadmos)

ギリシャ神話で、エウロペの弟。テーベの都の建設者で、初代の王となった。ギリシャ文字を伝えたとされる。

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精選版 日本国語大辞典 「カドモス」の意味・読み・例文・類語

カドモス

  1. ( [ギリシア語] Kadmos ) ギリシア神話英雄フェニキアのテュロス王アゲノルの子。ゼウスに誘拐された妹エウロペを捜し求めて諸国を巡った。また、ギリシアに文字を伝えたといわれる。

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改訂新版 世界大百科事典 「カドモス」の意味・わかりやすい解説

カドモス
Kadmos

ギリシア伝説で,テーバイの建設者。フェニキアのテュロス王アゲノルAgēnōrの子。姉妹のエウロペがゼウスに誘拐されたとき,彼は父王から,彼女を見つけるまでは帰国を禁ずという厳命のもとに,その捜索に出されてギリシアに来た。しかし捜索はむなしく終わったために帰国を断念し,デルフォイ神託の指示どおり,アポロン神殿の近くで見かけた牝牛につき従ってボイオティア(〈牝牛の国〉の意)に着き,牛が体を横たえた地点にカドメイア(のちのテーバイ市の城塞)を建設した。この際,犠牲式に必要な水を汲むべく,軍神アレスの泉を守っていた竜を退治したが,女神アテナの勧めでその歯を地にまくと,たちまち多数の軍兵が出現した。そこで彼はこれらの軍兵に同士討ちをさせて大部分を滅ぼし,生き残った5人をみずからに従わせた。この5人はスパルトイSpartoi(〈播かれた男たち〉の意)と呼ばれ,のちのテーバイ貴族の祖となった。こうして町の繁栄の基礎を固めたあと,彼はアレスとアフロディテの娘ハルモニアHarmoniaを妻に迎え,彼女に長衣と首飾を贈ったが,この贈物は将来のテーバイおよびカドモス一族にさまざまのわざわいをもたらすもととなった。のち彼は王位を孫のペンテウス譲り,妻を伴って赴いたイリュリアの地で,夫婦ともにゼウスによって蛇に変えられ,エリュシオンの野に送られたという。彼はまたフェニキアからギリシアへアルファベットを伝えたといわれる。
テーベ伝説
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カドモス」の意味・わかりやすい解説

カドモス
Kadmos

テーベ市の創建者として名高いギリシア神話の英雄。フェニキア王アゲノルの息子で,ゼウスにさらわれて行方不明になった姉妹のエウロペの捜索を父に命令されて国を離れ,デルフォイの神託に従い,テーベの建てられる場所に来た。そこでアレスの子の竜に従者たちを食い殺されると,この怪物を退治し,アテナに教えられたとおり,その死体の口から歯を取って耕した地面にまいて,スパルトイと呼ばれる武装した戦士たちを生じさせて,彼らを互いに殺し合せ,生残った5人を家来にして,テーベの前身であるカドメイア市を建てた。そして8年間アレスの下僕となって,この神の怒りをやわらげ,そのあとでゼウスの計らいにより,アレスとアフロディテの娘ハルモニアと結婚し,アガウェ,イノ,アウトノエの3女と息子ポリュドロスをもうけたが,一家に不幸が絶えないため,ハルモニアと一緒にカドメイアを捨ててイリュリアに移住してそこの王となり,最後には夫妻そろって大蛇に姿を変えられ,楽園エリュシオンの野に住わせられたという。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カドモス」の意味・わかりやすい解説

カドモス
かどもす
Kadmos

ギリシア神話で、テバイ(テーベ)の都の創建者、また初代の王。フェニキアのティロス(またはシドン)の王アゲノルとテレファッサの息子。姉妹のエウロペがゼウスにかどわかされたとき、父の命令で母親を連れてその捜索の旅に出、トラキアに至るが、のちにデルフォイの神託に従って1頭の牝牛(めうし)の後を追い、テバイの地へやってきた。カドモスはここでアテネ女神に犠牲を捧(ささ)げるため従者にアレスの泉の水をくみにやらせるが、泉を守る竜が従者を殺したためにこれと闘って倒し、その歯を大地に播(ま)いた。するとその歯から武装した戦士が生え出たので、その中に石を投げ込んで同士討ちをさせ、最後に残った5人に協力させてテバイの都を建設した。テバイ王となった彼はアレスの娘ハルモニアと結婚し、アウトノエ、イノ、アガウエ、セメレらの娘と息子ポリドロスを得た。のちに王位を孫のペンテウスに譲ってイリリアへ隠退し、最後には妻とともに大蛇と化して極楽浄土(エリシオン)へ送られた。彼は文字をギリシアに持ち込み、文明開化の礎(いしずえ)を築いた人物とされる。

[丹下和彦]

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百科事典マイペディア 「カドモス」の意味・わかりやすい解説

カドモス

ギリシア伝説のテュロス王アゲノルの子,テーバイ(テーベ)の建設者。デルフォイの神託によって白牛に導かれてボイオティアに着き,泉を守る怪竜を殺し,その歯を抜いて地に植えると戦士が地中からとび出してきて,テーバイの建設をたすけた。カドモスは初代の王となり,アフロディテの娘ハルモニアを王妃にめとった。彼はまたフェニキアからアルファベットをギリシアにもたらしたと伝えられる。
→関連項目テーベ伝説

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世界大百科事典(旧版)内のカドモスの言及

【テーベ】より

…古代名テーバイThēbai,現代ギリシア語ではティーベThívai。伝説によれば,フェニキア王の子でギリシアに文字をもたらしたと伝えられているカドモスが,ゼウスに誘拐された姉妹エウロペを探し求めてギリシアにやって来て,デルフォイの神託に従って建設したという。これによりテーベのアクロポリスはカドメイアKadmeiaと呼ばれた。…

【テーベ伝説】より

…以下では伝説をできごとの順に従って便宜上三分して大筋をたどる。(1)カドモスによる建国の物語。カドモスはフェニキア王アゲノルAgēnōrの息子で,姉妹のエウロペがゼウスにより誘拐されたとき,父王により探索に出された。…

【フェニキア】より

…とりわけウガリトでは,楔形文字を利用した世界最古の実用的アルファベットが発明された。上述のテュロス王アゲノルの別の息子カドモスがギリシアのテーバイにいたり,文字を伝えたという伝説の背景はこの頃のことと思われる(1964年のテーバイにおけるメソポタミア製円筒印章群の出土はこれを裏づける)。
[フェニキア人都市の独立時代]
 後期青銅器時代のフェニキアは,総じてエジプト第18,19王朝の支配下にあり,諸都市はその臣従国であったが,前1200年ころ〈海の民〉の到来とともにエジプトの支配権は失われ,カナンには〈海の民〉のほか,アラム人やヘブライ人が入植した。…

【竜】より

…ギリシア神話の怪物ピュトンはアポロンに射殺されて,同地の支配を人間の手にゆだねる。テーバイの建設者カドモスはアレスの泉を護っていた竜を斬り殺す。彼が女神アテナの命に従い竜の歯を地面にまいたところ,地中から戦士たち(スパルトイSpartoi。…

※「カドモス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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