アレス(読み)あれす(英語表記)Arēs

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アレス」の意味・わかりやすい解説

アレス
あれす
Arēs

ギリシア神話軍神にして殺害の神。ゼウスヘラの子で、野蛮で好戦的なトラキアが故郷とされている。ローマ神話ではマルスと同一視される。狂暴な性格を備え、無思慮で、戦いのための戦いを好む。彼はオリンポス十二神の一人であるが、固有の神話や伝説は比較的少ない。ホメロス以来のギリシア人は、アレスの暴力の勝利よりも、知性に立ち向かって敗北した話を好んだようである。

 アレスはトロヤ戦争において、トロヤ軍の総大将ヘクトルの側についてギリシア方を攻撃したが、アテネ女神の巧みな行動に助けられた英雄ディオメデスによって傷つけられ、大声を発してオリンポスに逃げ帰った。アレスの子キクノスがヘラクレスと戦ったときも、助けに駆けつけた父親アレスはアテネに妨げられ、負傷してオリンポスへ敗退した。女人族アマゾンの女王ペンテシレイアの恨みを晴らすため、アレスがアキレウスを討とうとしたときは、ゼウスによって止められている。また、アロアダイ(オトスとエフィアルテス)によって青銅の壺(つぼ)に閉じ込められ、13か月後にようやくヘルメスに救い出されたというように、敵(かたき)役扱いされた伝説が非常に多い。その一方で、女神のアフロディテと恋に落ちるという華やかな話もなくはないが、密会中の2人が女神の夫ヘファイストスの網にかかって笑いものにされるなど、その無思慮な性格が災いしてか脇役(わきやく)的存在に終始した。アレスの子たちも彼の乱暴で残忍な性質を受け継ぎ、オイノマオスは父に与えられた武器で娘の求婚者たちを次々と殺害した。息子らのうちキクノス、トラキア王のディオメデス、リカオンは、ヘラクレスに成敗されている。

 なお、アレスに捧(ささ)げられた動物は、呪法(じゅほう)の特徴である犬と禿鷹(はげたか)であった。

[小川正広]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アレス」の意味・わかりやすい解説

アレス
Ares

ローマのマルスと同一視されたギリシア神話の戦神。ゼウスとヘラの息子。文明的な軍神であるアテナ女神に対し,戦闘の野性的側面に関与する凶暴な神で,ギリシア人に蛮人の住む土地とみなされていたトラキアを本拠地にすると信じられた。アフロディテの愛人となり,彼女の夫ヘファイストスの目を盗んで密通を重ねたとされ,愛神エロスは,アレスの種によるアフロディテの子であるともいわれた。

アレス
Alès

フランス南部,ガール県北部の都市。ニームの北西,マシフサントラル (中央山地) 南東部のセベンヌ山地山麓に位置する。かつては炭鉱の町で,現在は化学・金属・紡績工業,ワイン製造業などの中心地。フェニキア起源の古い都市で,有名な築城家ボーバンが設計した要塞 (1788。現博物館) もあるが,近年,市街地再開発によって近代的アパート群の建築が進んでいる。人口4万 2296 (1990) 。

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