日本大百科全書(ニッポニカ) 「トドロフ」の意味・わかりやすい解説
トドロフ
とどろふ
Tzvetan Todorov
(1939―2017)
フランスの詩学者、文学理論家。ソフィア(ブルガリア)生まれ。パリ大学文学部(ソルボンヌ)に学び、1966年、第三課程博士(論文指導教授はロラン・バルト)。1968年、国立科学研究センター研究主任。ロシア・フォルマリズムの紹介者として重要な役割を果たす(『文学の理論』1965、『ミハイル・バフチーン――対話の原理』Mikhaïl Bakhtine, le principe dialogique 1981)。一方、『小説の記号学』(1967)、『デカメロンの文法』Grammaire du Décaméron(1969)、『幻想文学』(1970)、『散文の詩学』Poétique de la prose(1971)、『言説のジャンル』Les genres du discours(1978)などによって、物語論(ナラトロジー)の基礎を築き、新しい詩学の確立に努める。1970年以降、文芸理論誌『ポエティック』編集委員。ヤーコブソンの流れをくむ彼の詩学は、文学性(リテラリテ)を追求する内在的な「文学の科学」として規定されるが、『象徴の理論』Théories du symbole(1977)、『象徴性と解釈』Symbolisme et interprétation(1978)、『批評の批評』Critique de la critique(1984)では、諸説を歴史的文脈のなかで検討する対話批評(クリティック・ディアロジック)に向かい、『他者の記号学――アメリカ大陸の征服』La conquête de l'Amérique(1982)では、スペイン人とインディアンの関係を通して「他者」の問題を考察している。ほかに、共著『言語理論小事典』(1972)、J・J・ルソー論『はかない幸福』Frêle bonheur(1985)がある。
[花輪 光]
『松崎芳隆訳『詩学』(『構造主義』所収・1978・筑摩書房)』▽『及川馥訳『他者の記号学――アメリカ大陸の征服』(1986・法政大学出版局)』▽『テレンス・ホークス著、池上嘉彦他訳『構造主義と記号論』(1979・紀伊國屋書店)』