日本大百科全書(ニッポニカ) 「バロットン」の意味・わかりやすい解説
バロットン
ばろっとん
Félix Edouard Vallotton
(1865―1925)
スイス出身のフランスの画家、版画家。ローザンヌに生まれ、パリで没。1882年に画家を志してパリに出、アカデミー・ジュリアンで学ぶ。85年のサロンに初出品。90年代には木版画とリトグラフに卓越した技量を発揮した。とりわけ91年から手がけた木版画では、単純化されたフォルムや、白と黒の強い対照を伴った平面的パターンにより、日本の影響を顕著に示す装飾的で表現力に富んだスタイルを確立した。80年代末にアカデミー・ジュリアンの学生を中心に結成されたナビ派とは、93年からいっしょに作品を展示するようになり、平面的なスタイルで通りや室内の情景を描いたが、版画に顕著にみられる急進的な社会的意識のため、保守的で神秘的傾向の強いナビ派のなかでは特異な位置を占めていた。しかし99年の結婚後は、その社会的意識もしだいに薄らぎ、主力は油彩画に注がれ、静けさをたたえた写実的描写によって静物画、室内画、風景画などを制作した。
[大森達次]