日本大百科全書(ニッポニカ) 「カリーラとディムナ」の意味・わかりやすい解説
カリーラとディムナ
かりーらとでぃむな
Kalīla wa Dimna
古代インドの説話集『パンチャタントラ』(ビドパイの寓話(ぐうわ)集)の流れを引く、動物を主人公とする倫理的物語集。作者はイラン系のアラビア語著述家イブヌル・ムカッファーで、題名は第2章に出てくる2匹のヤマネコの名からとられている。古代の民話風物語に、貴人の教育のための倫理的色彩を添えたもの。現存のもののいくつかの写本にはテキストに若干の相違があるが、古形を伝えるものでは、約17の枠物語のなかに数十の説話がはめ込まれている。『パンチャタントラ』は中国を介して日本に影響を及ぼし、『今昔物語集』(1120ころ)の天竺(てんじく)編中に、『カリーラとディムナ』中に出てくるものと共通の物語が2編入れられている(『鶴(つる)と亀(かめ)』および『亀の肝』と略称されるもの)。また、このアラビア語版から1261年に古スペイン語訳がつくられ、のちにヨーロッパ各国語訳が行われた。パフラビー語(中世ペルシア語)原典は失われたが、シリア語版やヘブライ語版が伝えられ、また、近代ペルシアでも種々の流布本がある。比較文学史上もっとも重要な作品の一つに数えられる。
[矢島文夫]
『菊地淑子訳『カリーラとディムナ――アラビアの寓話』(平凡社・東洋文庫)』