ヒアリ(読み)ひあり(その他表記)Red imported fire ant

共同通信ニュース用語解説 「ヒアリ」の解説

ヒアリ

南米原産で赤茶色の小型アリ。体長は2・5~8ミリ。攻撃性が強く、毒針で刺されると腫れや激痛が生じ、強いアレルギー反応で最悪の場合は死に至ることもある。公園や農耕地にドーム状の巣(アリ塚)を作り、集団で活動する。国際自然保護連合(IUCN)が選ぶ「世界の侵略的外来種ワースト100」や環境省特定外来生物に指定されており、農作物被害や在来のアリを駆逐する生態系への影響も懸念される。

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知恵蔵 「ヒアリ」の解説

ヒアリ

ハチ目アリ科の昆虫で、学名Solenopsis invicta。
体色は主に赤茶色で、有毒である。巣内に女王アリとワーカー(働きアリ)がいる真社会性昆虫で、女王アリが1匹しかいない単女王制コロニーと、2匹以上の女王アリが同居する多女王制コロニーがある。個体による体長や体型のばらつきが大きいのが特徴で、ワーカーの体長は2.4~6ミリである。小型のワーカーは主に巣内で仲間の世話や採餌を担う。大型のワーカーは胸腹部に比べて頭部が大きく、あごを使って餌を砕いたり巣を掘ったりする。体色の差もあり、他に黄褐色、赤褐色、黒褐色のものがいる。触角は10節で先端の2節が大きくふくらむ。腹部と胸部をつなぐ腹柄は2節でこぶがある。ワーカーはすべてメスで、生殖能力はない。
巣は草地などの明るい開けた場所の地中につくられ、巣口に土を盛り上げたアリ塚ができることがあり、その高さは大きなコロニーでは60センチメートルにもなる。攻撃性が強く、巣を刺激されると集団で襲いかかり、腹部にある針で一匹が繰り返し刺す。雑食性で、他種のアリを含む昆虫類の他、爬虫類、鳥類、小型哺乳類を集団で攻撃して捕食する。
ヒアリの毒はアルカロイド系の強い毒(ソレノプシン)で、人が刺されるとやけどのような激痛が生じ、水疱(すいほう)状に腫れる。吐き気動悸(どうき)、呼吸困難、血圧低下、全身のじんましん、強い腹痛など、毒に対して激しく強いアレルギー反応のアナフィラキシーを起こすことがあり、死亡例もある。ヒアリの毒のアレルゲンは、スズメバチなどの毒との交差抗原性(共通性)があるため、他のハチに刺されたことがある人は、ヒアリに初めて刺された場合であってもアナフィラキシーショックを起こす可能性がある。
原産地の南米から1930年代に北米に侵入し、2000年代になってオーストラリアやニュージーランド、中国、台湾など環太平洋諸国に分布が拡大し、定着してきた。亜熱帯、温帯でも生息が可能であり、日本では国内への侵入を警戒する重要性が高いとして、2005年施行の外来生物法でヒアリを特定外来生物に指定している。
17年5月26日、兵庫県尼崎市において、中国・広東省広州市の南沙港から出航した貨物船のコンテナ内部から日本国内初のヒアリが発見された。その後、ヒアリの発見報告は相次ぎ、同年8月28日までに、11都府県で15件確認された。いずれも中国などからの貨物コンテナや、港の保管場所周辺で、内陸での繁殖やアリ塚はまだ確認されていないことから、8月時点で定着している可能性は低いと考えられている。
ほかにも、輸入貨物にまぎれて侵入する有害な外来アリとして、17年春までの過去9年間にアカカミアリやアルゼンチンアリなど少なくとも15種33件が環境省に通報されている。

(葛西奈津子 フリーランスライター/2017年)

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改訂新版 世界大百科事典 「ヒアリ」の意味・わかりやすい解説

ヒアリ (火蟻)
fire ant
Solenopsis geminata

別名アカカミアリ。膜翅目アリ科の昆虫。働きアリの体長は2.4~6mm,体型に大小の変化があり,大型の個体は胸腹部に比べて頭部が大きく,頭部の後縁がへこんでいる。体色にも変化が多く,黄褐色,赤褐色,黒褐色のものがある。複眼の大きさは中くらい,触角は10節で先端の2節は大きく,腹柄は2節。巣は明るい開けた場所の地中につくられ,巣口に土を盛り上げることがあり,ときにはかなり大きなコロニーになる。このアリの毒針に刺されると激痛があり,皮膚に炎症が残る場合があるため農作業などに支障がある。野菜や発芽中の種子,果樹などを加害し,また屋内に侵入して食品や衣類を食害することがある。熱帯アメリカ原産と考えられているが,交易に伴って全世界の熱帯地方に広がった著名な害虫。東南アジアではフィリピン以南に生息する。日本でも沖縄に侵入して一時的に繁殖した例があるが,冬季の低温に耐えられず永続的な土着は不可能と考えられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒアリ」の意味・わかりやすい解説

ヒアリ
fire ant

膜翅目アリ科に属するヒアリ類の総称,または一般にヒアリ Solenopsis invicta(別名アカヒアリ)と呼ばれる種。南アメリカ原産で,熱帯地方や一部の温暖な地域に生息する。体色は赤茶色,体長は 1~5mmと小型。農地や公園など開けた場所に,土でドーム状の蟻塚をつくる。ヒアリ同士は分泌する化学物質や発音(体の一部分と他の部分をこすり合わせたり,たたいたりする)を通じてコミュニケーションをとる。近隣のアリのコロニーから威嚇された場合,職蟻(働きアリ)の成虫は攻撃行動をとるが,体や毒針の十分発達していない幼虫は死んだふりをする。職蟻は農作物に害を及ぼし,家禽などを襲うことで知られる。また,毒針で人間が刺されると,やけどのような痛みが生じ,強いアレルギー反応(→アナフィラキシー)により死にいたることもある。1930年代に南アメリカからアメリカ合衆国に移入し,21世紀にかけてオーストラリア,中国などに急速に分布を拡大した。日本国内では 2017年に初めて確認された。「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)の特定外来生物に指定される(→外来生物)。

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知恵蔵mini 「ヒアリ」の解説

ヒアリ

膜翅(まくし)目アリ科の昆虫。南米原産。漢字では「火蟻」と表する。体色は赤茶色で、体長は約2~6ミリメートル。草地などの開けた場所に営巣する。集団で小型の哺乳類を襲うなど攻撃性が強く、腹部にある針で相手を繰り返し刺す。人が刺されるとアルカロイド系の強い毒(ソレプシン)によってやけどのような激痛が生じ、かゆみや動悸などが引き起こされ、アレルギー反応のアナフィラキシーショックで死に至ることもある。一度定着すると根絶は困難で、米国や中国、オーストラリアなどの環太平洋諸国に分布が拡大している。日本は2005年に特定外来生物に指定し、侵入を警戒してきたが、17年5月、兵庫県の神戸港で初めて確認された。翌月にも同港内で発見されており、神戸市は環境省と連携して調査を行い、周辺住民へ注意を呼びかけている。

(2017-6-20)

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