日本大百科全書(ニッポニカ) 「ひき逃げ」の意味・わかりやすい解説
ひき逃げ
ひきにげ
人の死傷を伴う交通事故に際して、運転者がとるべき義務をとらずに、事故の現場から立ち去ることを意味する。道路交通法第72条第1項により、交通事故があったときは、運転者その他の乗務員は、ただちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止するなどの必要な措置を講じなければならない。また、運転者は、警察官にその交通事故の発生日時および場所、死傷者の数および負傷者の負傷の程度、損壊した物および損壊の程度、車両の積載物ならびに交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
これらの救護義務、危険防止義務ならびに警察官への報告義務を果たさない場合は、刑罰の対象となる。ひき逃げ事件の悪質性に対する社会的な非難を反映して、事故に責任がある運転者が救護義務、危険防止義務を果たさなかった場合の最高刑は懲役10年にまで引き上げられている。自動車運転過失致死傷罪の最高刑は懲役7年であるので、ひき逃げをした場合には、併合罪として懲役15年以下の刑によって処断されることになる。
ひき逃げ事件が発生すると、警察では、交通鑑識資機材や常時録画式交差点カメラ、ドライブレコーダーなどを活用して、捜査を行い、被疑者を検挙している。死亡事故の場合、2017年(平成29)から2019年の3年間の平均で99.5%というきわめて高率で被疑者が検挙されている。
[田村正博 2021年1月21日]