ひので

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ひので」の意味・わかりやすい解説

ひので

宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))が2006年(平成18)9月にM-Ⅴロケットにより打ち上げた太陽観測衛星。計画名はSOLAR-B。「ひのとり(打上げは1981年)」「ようこう(打上げは1991年)」に続く3番目の太陽観測衛星。軌道高度約680キロメートルの円軌道(太陽同期)を96分かけて地球を周回しながら太陽観測を行う。「ひので」の開発目的は、コロナ加熱問題や、太陽フレアなどコロナ内部における爆発現象の発生過程の解明、および太陽磁場微細構造の研究である。実用的な目的としては、宇宙天気予報の基礎を築くことがあげられる。フレアによって放出された宇宙プラズマは地球磁気圏との相互作用によって磁気嵐を発生させ、これらが人工衛星の故障や宇宙飛行士の健康被害、無線通信障害、送電線の異常電流などの原因となっている。「ひので」はJAXAと国立天文台の共同で開発が行われ、NASA(ナサ)(アメリカ航空宇宙局)やイギリスのPPARC(Particle Physics and Astronomy Research Council、素粒子物理学・天文学研究協議会)がセンサーの開発に協力した。衛星は1.6メートル×1.6メートル×4.0メートルで、質量は約900キログラム。太陽電池パドルを展開すると10メートルになる。

 「ひので」には、可視光・極端紫外光・X線の三つのセンサーが搭載されている。可視光磁場望遠鏡(SOT:solar optical telescope)は、可視光波長で太陽を観測し、その偏光を測定することで太陽表面(光球)の局所的な磁場ベクトルを詳しく調べる。望遠鏡口径は50センチメートル、空間分解能は0.2~0.3秒角、視野は直径400秒角、CCD画素数は2000×2000である。極紫外線撮像分光装置(EIS:extreme ultraviolet imaging spectrometer)は、高い空間分解能を有し波長17~21ナノメートルと25~29ナノメートルでのスペクトルを観測することにより、光球や彩層と、その外側にあるコロナとの間でおこるエネルギーの移動を調べる。X線望遠鏡(XRT:X-Ray telescope)は、高温のコロナを観測する。観測波長域は0.2~20ナノメートルであり、温度でいうと100万℃以下から1000万℃以上までの範囲を観測する。とくに1000万℃以上の高温域は従来の衛星では観測できなかった領域である。空間分解能は1秒角、視野は34分角で太陽全体をとらえることができる。

 「ひので」の科学的成果は、太陽フレアの発生原因となる磁場構造を解明したほか、磁力線に沿って伝わる横波(アルベン波)を初めて検出したことで、太陽物理の大きな謎であるコロナ加熱の問題解明、極域磁場極性反転現象の進行の確認などである。また、金星の太陽面通過や日食など天文現象も観測し、地上からはけっして見ることができない映像を届けてくれた。

[森山 隆 2017年3月21日]


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