翻訳|corona
コロナとよばれるものには、太陽コロナ、恒星のコロナ、銀河コロナ、光冠、地球コロナがある。
[日江井榮二郎]
皆既日食の際、黒い太陽の周りに真珠色に輝いて見える太陽最外層の大気。輝度は光球の約100万分の1でほぼ満月の明るさである。コロナの形は日食ごとで異なり、黒点数が極大となる時期にはほぼ円形となり、極小期には太陽の極方向のコロナが縮まり赤道方向に伸びた扁平(へんぺい)な形となる。コロナは一様な明るさではなく、磁力線を思わせるような微細な筋(すじ)構造が見える。
[日江井榮二郎]
コロナの実体は主として陽子と電子、および微量の鉄、カルシウムなどの金属イオンからなる希薄なプラズマである。約1億分の1気圧、数密度にすると1立方センチメートル当り1億個程度である。コロナの明るさの99%はコロナ中の自由電子による太陽の散乱光である。したがってコロナの色は太陽光と同じであり、かつ偏光をしている。自由電子は1秒間に7000キロメートルという激しい熱運動をしているので、太陽の吸収線はドップラー偏移を著しく受けてほぼ完全にかき消され、一見、連続スペクトルのようになる。この散乱光によるコロナをKコロナ(ドイツ語のKontinuierlichen Koronaにちなむ)という。残りの1%はコロナ自身の発光であり、十数個の電子を失った高階電離の鉄やカルシウムなどのイオンによる輝線である。これをEコロナEmission Koronaという。太陽の縁(ふち)から太陽半径の3倍ぐらい離れると、惑星間空間に分布する塵(ちり)による太陽光の散乱光が卓越してくる。このスペクトルは塵の熱運動が遅いので太陽光球のスペクトルが見られ、多数の吸収線が認められる。これをFコロナFraunhofer Koronaという。
[日江井榮二郎]
コロナ中に高階電離したイオンが存在していること、自由電子の激しい熱運動のあること、コロナの数密度の高さ分布が地上に比べてはるかにゆっくりと減少していること、また太陽電波の熱放射などからコロナは100万~200万Kの高温であることがわかった。光球が6000Kであるのに、その外側にある大気を200万Kを超える高温に保つためには、太陽本体から非熱的な過程によってエネルギーが運ばれていると考えなければならない。
1960年代からコロナ加熱の理論的な研究が進められ、光球の内部でおこっている対流から圧縮波が発生し、コロナ中で衝撃波となって熱化するという説が広く受け入れられていた。しかし科学衛星による観測によっても衝撃波をみいだすことができないこと、対流は光球全面で生じているので、全面でコロナが明るいことが予想されたにもかかわらず、X線で観測したコロナは磁場の強い黒点のところでとくに明るく、またコロナホールとよばれるコロナのきわめて暗い領域も存在することがわかった。コロナホールからは太陽風が吹き出していて、それが地球に当たると地磁気擾乱(じょうらん)をおこす。これらのことから1980年代には、コロナの加熱は音波衝撃波によるのではなく、電磁気的加熱である可能性が強くなった。コロナ中の磁場に沿って伝播(でんぱ)する磁気流体の熱化とか、コロナ中の電流の熱化などが考えられているが、まだ定説はない。
[日江井榮二郎]
皆既日食はコロナ観測の絶好の機会である。天候に左右されるという欠点はあるが、地上に大型の観測機器を設置して微細な構造を調べることができる。コロナ中の筋構造はコロナの加熱との関連で観測されている。コロナの写真やCCDを用いた観測では満月で露光を決める。気温は下がるので、皆既直前に焦点位置を決めるとよい。日食外のコロナ観測はコロナグラフを使い、Eコロナを観測している。Eコロナの明るさはコロナ中の磁場の存在と密接な関連があると考えられている。
1991年(平成3)8月30日に文部省(現、文部科学省)宇宙科学研究所が打ち上げた科学衛星「ようこう」は、X線望遠鏡、X線分光器によって、コロナの研究を精力的に行っている(宇宙科学研究所は2003年10月より宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所と統合して独立行政法人、宇宙航空研究開発機構となった)。また1996年にはESA(ヨーロッパ宇宙機関)が科学衛星「SOHO」を打ち上げ、紫外線、X線での太陽観測を行い、「ようこう」と共同してコロナの研究を進めている。
[日江井榮二郎]
太陽コロナの加熱が音波衝撃波によるものであると考えられていた1960~1970年代には、理論的に知られていた恒星の対流運動を基に、そこから発生する圧力波のエネルギーを推定し、恒星のコロナについて予想がされていた。それによると、恒星のスペクトル型がA型より早期型の高温の星では表面対流層が存在していないのでコロナはなく、また巨星は表面重力が小さくて高温コロナのプラズマを重力で引き止めておくことができないためにコロナがないと推定されていた。しかしアメリカのX線天文衛星であるアインシュタイン衛星の観測は予想を覆し、ほとんどの恒星が強いX線を放射しており、高温の外層大気すなわち広義のコロナをもつことを示した。A型より早期型では明るい恒星ほどコロナが強く、またF型より晩期型では自転速度の速い恒星ほどコロナが強いことがわかった。巨星にもコロナが存在することは、太陽と似た磁場による高温プラズマの閉じ込めによるものかもしれない。恒星の自転はダイナモ機構によって磁場の発生と関連があると考えられているので、晩期型の恒星のコロナも磁場の存在と密接な関連があると思われる。早期型の恒星のコロナは、大気を構成しているプラズマが強い放射圧により吹き飛ばされ、そのプラズマ運動の熱化によってコロナがつくられるという説があるが、磁場もかかわりをもっている可能性もある。
[日江井榮二郎]
高温のプラズマが銀河を大きく取り巻いていて、ハローとよばれる。
[日江井榮二郎]
薄雲のベールで覆われているときに見える太陽や月の周りの光の輪。
[日江井榮二郎]
地表から高さ数千~数万キロメートルの地球大気の外縁には主として水素とヘリウムからなる希薄な中性大気圏が形成されていて、太陽からの紫外線放射を選択的に散乱し、地球全体を淡い紫外グローで包む。この大気圏を地球コロナという。
[日江井榮二郎]
冠に語源をもち,天体などの周囲に広がって見える発光体をいう。
皆既日食のときに月に覆い隠された太陽光球をとり巻いて外側に大きく真珠色に広がって見える太陽最外層大気。単にコロナといえば太陽コロナをさす。これは有史以前から日食を通して人類に知られていたと思われる。コロナの明るさは光球の100万分の1に過ぎないので通常日食以外では見えないが,空気中のちりによる散乱の少ない高山などに設置されたコロナグラフによれば,光球の近くにある比較的明るい内部コロナは日食以外のときでも見ることができる。最近では,人工衛星にのせたコロナグラフにより,散乱光のないスペースからずっと外側の外部コロナまで調べることが可能となった。太陽コロナは太陽活動と関係して形を変え,一般に太陽活動極大期にほぼ円形となり,極小期には赤道方向にいくつかの光った“つの”(ストリーマーstreamer,コロナの流線ともいう)をもった形に見える。この形は,数日から10日くらいで変化するが,これはコロナ自体の変化にもよるが,太陽の自転により地球から見るストリーマーの角度が変わることにもよっている。
コロナの実体が何であるかがわかったのは,コロナからの光のスペクトル分析によってであった。これによるとコロナの光の大部分は,自由電子によって光球の光がトムソン散乱を受けたもの(これをKコロナという)であり,連続スペクトルになっている。散乱光の強さからコロナは1cm3当り108個程度の自由電子を含む希薄な気体であることが示唆された。また,外部コロナの光は太陽・地球間の細かい塵が太陽光を散乱して生ずる部分を含んでおり,これをFコロナと呼ぶことがある。内部コロナは輝線スペクトルも放射している(これをEコロナという)が,これらのスペクトルはいかなる地球上の物質のスペクトルにも同定できず,初めは地上に存在しない太陽固有の元素からの輝線ではないかと考えられたが,1930年代に至って,これらは9~13回電離という高階電離をした鉄やカルシウムなどのイオンからのものと判明し,コロナは100万~200万Kという高い温度をもっているという驚くべき事実がわかった。このことは,後に50年代になってコロナが100万~200万K相当の熱電波放射をしていることがわかったことなどにより裏づけられ,確かなものとなった。温度が6000Kほどの太陽光球が,その外側に100万Kを超える高温の大気をもつことは,一見熱力学の法則に矛盾するように思われるが,これはエネルギーが非熱的過程で光球から外層に運ばれてそこで熱化されると考えれば,熱力学の法則にも矛盾しないことがわかり,60年ごろからこの線に沿ってさまざまな理論的説明が考えられてきた。その中でもっとも広く受け入れられてきたのは,光球面下の乱対流から発生する圧縮性の波がエネルギーを外層に運び出し,衝撃波化して熱化するという音波衝撃波仮説であった。しかし,これは73年に打ち上げられたアメリカの有人衛星スカイラブに搭載されたX線撮像装置で撮影されたコロナのX線像が,光球磁場領域を結ぶ多数の細いループ状構造の集りから成り立っていることがわかり,疑問を呈されることとなった。音波衝撃波仮説では,乱対流は光球全面で起こっているのでコロナは全面に存在することが期待されたが,実際にはコロナは黒点その他に局在する磁場ときわめて密接な関係をもち,とくに光球乱対流は存在しているのに,その上空にコロナのない(きわめて弱い)領域〈コロナホール〉すら存在していたためである。光球表面での磁場の存在との関連が確認されたことにより,コロナの加熱は電磁的加熱である可能性が強くなった。光球の乱対流で作られるが磁場に沿ってのみ上方に伝播(でんぱ)する磁気流体波の熱化によるとする説,磁力管の光球での足が光球の乱流運動によりねじ上げられ生ずる電流の熱化によるとする説などが提唱され,検討されている。従来のプラズマ理論によれば,コロナのような高温状態では電気抵抗がきわめて小さく,これらの電流の熱化はむずかしいが,最近ではプラズマ中の各種波動の励起により,伝導電子が散乱されて実効抵抗が大きくなり電流が熱化されるという可能性が論じられている。
上記スカイラブ衛星に続いて,宇宙のX線放射をさぐる大型X線望遠鏡を積んだアインシュタイン衛星(HEAO-2),紫外線望遠鏡を積んだIUE衛星などが80年前後に打ち上げられて,宇宙のX線および紫外線放射源の探査が大きく進んだが,その成果の一つに恒星のコロナの観測がある。太陽コロナが音波衝撃波加熱によると考えられていた1960年代には,種々の星について,すでに当時から理論的に知られていた表面乱対流のようすを用いて発生する圧力波のエネルギーを計算し,それに基づいて,コロナの存在が論じられていた。それによるとスペクトル型がA型より高温の星には表面対流層が存在していないため,コロナは存在せず,また表面重力の小さい巨星にも高温コロナプラズマを重力により引き止めておくことができないため,高温コロナは存在しないと考えられていたが,アインシュタイン衛星の観測の結果は,これらの推定を覆し,高温度星も強いX線放射をしており,また晩期型巨星を含むほとんどの星も高温外層大気(すなわち広義のコロナ)をもつことを示した。X線はA型より早期型の高温度星では,明るい星ほどコロナも強く,F型より晩期型の低温度星ではむしろ星の自転の速さにおもに関係していることがわかって,コロナの発生機構がこれらで異なることが示唆された。表面重力が小さくて高温プラズマを引き止めておけないはずの巨星にも高温コロナが存在することは,太陽の場合のように磁場による閉じ込めがあることを示唆しており,また晩期型星において,コロナの存在が自転の速さと関連しているのも,自転がダイナモ機構により磁場の発生につながっているためと解釈され,太陽の場合と同様磁気加熱説を考える論拠ともなっている。早期型星の場合は,強い放射圧により吹きとばされるプラズマ運動の熱化によるとする説などがあるが,磁気加熱が働いている可能性も強い。このほか,形成中の若い星やRS CVn型近接連星系がとくに強いX線放射をしていることがわかっているが,これらにおいても磁場が重要な役割を演じていると考えられている。
星の大集団である銀河にも,それを大きくとり巻くコロナ(ハローと呼んでいる)がある。これはやはり銀河円盤あるいは活動的な銀河核からもれ出た磁場をもつ高温プラズマが,銀河の周辺に引き止められているものと考えられており,電波やX線で見ると,とくに銀河団中を高速で運動する銀河などでは,銀河団内ガスとの相互作用によりなびいた形になっているものなどがあり,その存在がとくに顕著になっている。
薄雲を通して見た太陽や月のまわりに見える光の輪は光冠と呼ばれ,また放電現象にはその一つの形態としてコロナ放電がある。
執筆者:内田 豊
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…で表される。イタリア語では記号の形状からコロナcoronaともいう。大別して(1)正規の拍節が停止されて音符や休符が延長されること(延長記号),(2)曲の区切りや終止,の二つの意味がある。…
…金銀や宝石を使った冠のほか,髪にみたてて編んだ黒の細紐に鮮やかな色のリボンを結んだり,ロータス(睡蓮)の花を髪にさすことが好まれた。ギリシア,ローマ時代には,草を編んだコロナと呼ばれる月桂冠が,男子の髪飾として知られる。婦人はフィレットや,ステファニと呼ばれて三日月形の金属製の飾りを額の上につけた。…
…なお,種族IIの天体の一部は,この銀河系主体の周辺の,やや扁平な球状の範囲にも希薄ながら分布しており,この部分をハローhaloと称している。以上が銀河系の構成であるが,最近は,銀河系の範囲が,上記のハローの部分のずっと外側にまで広がっているという説が有力となり,目には見えないこの広がりの部分を,コロナcoronaと呼ぶ例も目につくようになった。 アンドロメダ銀河をはじめとする多くの渦巻銀河に見られる渦巻模様が,わが銀河系にも存在することは,1951年に初めて明らかにされた。…
…で表される。イタリア語では記号の形状からコロナcoronaともいう。大別して(1)正規の拍節が停止されて音符や休符が延長されること(延長記号),(2)曲の区切りや終止,の二つの意味がある。…
…なお,種族IIの天体の一部は,この銀河系主体の周辺の,やや扁平な球状の範囲にも希薄ながら分布しており,この部分をハローhaloと称している。以上が銀河系の構成であるが,最近は,銀河系の範囲が,上記のハローの部分のずっと外側にまで広がっているという説が有力となり,目には見えないこの広がりの部分を,コロナcoronaと呼ぶ例も目につくようになった。 アンドロメダ銀河をはじめとする多くの渦巻銀河に見られる渦巻模様が,わが銀河系にも存在することは,1951年に初めて明らかにされた。…
…光環とも書き,英語ではコロナcoronaという。層状の中層の雲である高層雲などを通して太陽や月を見た時,そのまわりに現れる視半径2~5度の光の輪である。…
※「コロナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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