インド北東部の州。面積17万3876km2,人口8300万(2001)。州都はパトナー。地形的にはほぼ標高150m線を境界に,北のガンガー(ガンジス)川中流域平原の東半部と,南のチョタ・ナーグプル高原とからなる。前者はさらにガンガー川を境にして南北に分かれ,北岸部の平野は,東端部の南流するコーシ川を除くと,ガンダク川などの南東流する諸河川からなり,北端部のネパール国境部はタライ地方となる。大複合扇状地を形成するコーシ川はインド有数の荒れ川として著名で,洪水と流路変更とを繰り返してきた。南岸部の平野は,西端部のソーン川流域を除くと北岸部に比べて小さく,所々に孤立丘陵が散在する。チョタ・ナーグプル高原は,デカン高原の最北東端にあたる標高500~1000mの高原で,年降水量は1000~1800mm,西に向かうほど低下するが,その80%以上が6~10月の南西モンスーン期に降る。この雨をもとに営まれる米作が農業の中心で,そのほか雑穀,トウモロコシ,油料作物,ジュートの産が多い。しかし天水田が多く農業は不安定で,凶作と飢饉に見舞われることも多い。とりわけ1965年には大きな被害があった。チョタ・ナーグプル高原はインド有数の各種鉱産資源の埋蔵地で,鉄鉱石,石炭,銅鉱,ボーキサイト,雲母などの産が多く,インド最初の製鉄都市ジャムシェドプルをはじめダーンバード,ラーンチー,ボカーロなどの工業都市が立地する。しかしこれら工業都市の存在にもかかわらず,ビハールはインドで最も貧困な州の一つにとどまっている。
前1000年ころアーリヤ人がガンガー川中流域に進出して樹立したビデーハVideha国はビハールにあった。《ラーマーヤナ》のヒロイン,シーター姫は同国の王女とされる。また,マガダ国が前6世紀に繁栄し,そのころ釈迦とマハービーラがおのおの仏教とジャイナ教を創始した。前4~前2世紀にはマウリヤ朝が現州都パトナーの前身パータリプトラを首都として興り,アショーカ王時代にインド史上最初の大帝国をつくりあげた。4~6世紀にはグプタ朝が同じくパータリプトラを根拠地として栄えた。しかしそれ以後はビハールは北インドの中心となることはなく,12世紀末には西方からのムスリム勢力に征服され,以後デリー・サルタナットやムガル帝国の支配下にはいった。1764年州西端部のブクサルでの戦いでムスリム連合軍が敗北し,イギリス東インド会社勢力のインド支配が確立するとともに,ビハールは同会社領のベンガルに編入された。1857年のインド大反乱(セポイの乱)では反乱軍の中心勢力となり,そのため英領下で疎外されたことを今日の貧困の一因とする見方もある。1911年のベンガルの東西分割取り消し宣言をうけて,翌12年から36年までオリッサと合体された。インド独立後ほぼビハーリー語地帯を範域として現在の州が成立したが,州の公用語はヒンディー語である。
2000年11月,ビハール州の南部はジャールカンド州として分離された。新州(州都ラーンチー)は面積7万4677km2,人口2691万(2001)。
執筆者:応地 利明
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インド北東部の州。北はネパール、東は西ベンガル州、西はウッタル・プラデシュ州、南はジャールカンド州と接する。面積9万4163平方キロメートル。人口は8287万8796(2001)、1億0409万9452(2011センサス)と全国の州のなかで第3位、人口密度が高い。州都はガンジス川沿岸のパトナ。公用語はヒンディー語である。北部はガンジス川中流部にあたり、ヒマラヤ山脈から流出するコシ川、ガンダク川の扇状地をあわせて肥沃(ひよく)な平原地帯が広がり、農業地域となっている。南部は開析の進んだチョタ・ナーグプル高原が位置し、森林地帯が広がる。年降水量は、平原西部が1000ミリメートル、東部が1800ミリメートルで、夏のモンスーン季に大半が降る。気温は冬季は15℃前後であるが、夏には35℃を超える。南部の高原地域ではそれよりやや低く、降水量も多い。農業は平原地域が中心で、米作がとくに盛んである。ほかに小麦、豆類、サトウキビ、ジュートなどが栽培されるが、西部では、キビ類、小麦の比重が大きい。ソン川下流部には大規模な灌漑(かんがい)水路が建設されている。南部の高原地域は畑作が一般的で、キビ類、豆類が栽培されるが生産性は低い。インドでもっとも地下資源に恵まれた州で、ジャーリア炭田をはじめシンブーム県の鉄鉱石、銅、パラマウ県のボーキサイトなどがある。こうした資源に支えられて、南部のチョタ・ナーグプル高原やダモダル川流域に重工業地帯が形成されている。タタ財閥の製鉄所、機械工場のあるジャムシェドプル、機械・化学工業のランチ、鉄鋼のボカロ、肥料のシンドリ、セメント工業のカラリなどが代表的な鉱工業都市である。
2000年11月、南部をジャールカンド州として分離している。
[林 正久]
インド,ガンジス川中流の地域。東部のマガダ地方は前6世紀から後6世紀半ばに至るまで,マウリヤ朝やグプタ朝の都が置かれ,北インドの中心として栄えた。また仏教およびジャイナ教の発祥地でもある。6世紀半ば以降北インドの中心としての地位を失ったが,仏教の中心地として重要性を保った。中世にもスール朝の拠点となるなどしたが,近代に至りしだいに後背地となり,現在ではインドで最も貧しい州の一つとなっている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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