ジャイナ教の開祖。仏教の釈迦と同時代に活躍した当時の代表的な自由思想家の一人。生没年は前599-前527年,前598-前526年の伝統説と,前549-前477年,前539-前467年,前444-前372年の近代の学者の諸説がある。マハービーラは〈偉大な英雄〉の意味の尊称で,漢訳仏典では〈大雄〉と呼ばれる。本名はバルダマーナVardhamāna(〈栄える者〉の意)。マガダ(現,ビハール州)のバイシャーリー市近郊のクンダ村で,ジュニャートリJñātṛ族の武士階級(クシャトリヤ)の家に生まれる。父親の名はシッダールタSiddhārtha,母親はトゥリシャラーTriśalāといった。若くして結婚し1女をもうけた(あるいは,生涯独身を通したともいう)が,30歳で出家し,ニガンタNigaṇṭha派と呼ばれる沙門(しやもん)(反バラモン教的出家遊行者)の群れに身を投じた。12年間裸体で厳しい苦行を行い,ついに完全な知恵を体得してジナJina(〈勝利者〉の意)となった。ジャイナ教とは〈ジナの教え〉を意味する。その後30年間遊行遍歴を続けながら教えを説き広め,72歳でパータリプトラ(現,パトナー)市近郊のパーバー村でその生涯を閉じたと伝えられる。ジャイナ教徒の信仰によると,マハービーラ以前に既に23人の祖師ティールタンカラTīrthaṅkaraたちがおり,彼は第24祖にあたるという。第23祖パールシュバナータは,たぶんニガンタ派を率いていた実在の人物で,マハービーラはその教説を改良してジャイナ教を創設したとみられる。この意味では彼は〈改革者〉である。マハービーラは,〈生き物によって生き物が傷つけられる〉苦悩の世界を深く反省し,苦しみの原因であるカルマン(業(ごう))の除去によって汚れのない本性的自己を回復するために,自ら厳しい禁欲主義を実践した。また,思想的には事物は相対的にのみ認識され,また真理は多様に言い表されるべきものであるとする相対主義の立場を標榜した。マハービーラの思想と行動は,その後ジャイナ教として,釈迦の仏教とともに,非正統バラモン教思想を代表する宗教に成長し,今日に至るまでインド社会のなかでさまざまな形で影響を与え続けている。
→ジャイナ教
執筆者:矢島 道彦
9世紀ころのインドの数学者。生没年不詳。空衣派のジャイナ教徒で,ラーシュトラクータ朝のアモーガバルシャ王の治世に有名な数学書《ガニタサーラサングラハGaṇitasārasaṃgraha》を著したという以外何も知られていない。インドでは数学は天文学の一部として扱われるのが普通であったが,彼の著書は珍しく数学のみを扱っており,ジャイナ教徒としての独自の立場をとっているように見受けられる。インド数学に対するジャイナ教の貢献を考察するためにも,この書とその前史を研究する必要があるが,難解な韻文で書かれ,サンスクリットの注釈書が存在しないため,あまり研究が進んでいない。
執筆者:矢野 道雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生没年不詳。ジャイナ教の開祖。紀元前6~前5世紀、または前5~前4世紀、ゴータマ・ブッダ(釈迦(しゃか))と同時代に活躍した古代インドの代表的な自由思想家の一人。マハービーラとは本来「偉大な英雄」を意味する尊称で、本名はバルダマーナVardhamānaという。マガダ(現、ビハール州)のバイシャーリー市近郊のクンダ村で、ナータ人の武士階級(クシャトリヤ)の家に生まれた。父親はシッダールタSiddhārthaといい、母の名はトリシャラーTriśalāであったという。若くして結婚して1女をもうけたとも、また生涯独身であったともいわれるが、30歳で出家し、ニガンタ派とよばれる沙門(しゃもん)(反バラモン教的出家行者)の群れに身を投じた。このため彼はニガンタ・ナータプッタ(ニガンタ派のナータ出身者)ともよばれた。12年間裸体を守り、厳しい苦行を続けた結果、完全な智慧(ちえ)を体得してジナ(「勝利者」の意)となった。ジャイナ教とは「ジナの教え」を意味する。その後30年間遍歴しつつ教えを説き広め、72歳でパータリプトラ(現、パトナ)市近郊のパーバー村において生涯を閉じたとされる。ジャイナ教徒の信仰によると、彼は第24番目の祖師ティールタンカラ(ジナ)であるという。第23祖パールシュバPārśvaはおそらくニガンタ派を率いていた実在の人で、マハービーラはその教えを改良してジャイナ教を確立したとみられる。
マハービーラは「生き物によって生き物が傷つけられる」苦悩の現実世界を直視し、反省して、苦しみの原因である業(ごう)(カルマ)を除去して汚れのない本性的自己を回復するため、不殺生(ふせっしょう)(アヒンサー)などの徹底した禁欲主義を守るべきことを説いた。また思想的な特徴としては、事物は相対的にのみ認識されうるものであり、真理はことばによって多様に言い表されるべきものであるという「相対主義」の立場をとり、断定的判断・言表を嫌ったことで知られる。マハービーラの宗教は、その後仏教とともに、非正統バラモン教思想を代表する宗教に成長し、今日に至るまでインド社会のなかでさまざまな形で影響を与え続けている。
[矢島道彦 2018年5月21日]
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…仏教の開祖ゴータマ・ブッダとほぼ同時代のマハービーラ(前6~前5世紀)を祖師と仰ぎ,特にアヒンサー(生きものを傷つけぬこと。〈不殺生〉)の誓戒を遵守するなどその徹底した苦行・禁欲主義をもって知られるインドの宗教。…
…したがって〈仏陀〉は古来から存する真理を悟った人の意であり,真理の創造者ではない。〈仏陀〉は多数存在することができ,ジャイナ教の開祖マハービーラもこの名で呼ばれたことがある。しかし一般には,〈仏陀〉といえば釈迦をさす。…
※「マハービーラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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