日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビーバー」の意味・わかりやすい解説
ビーバー
びーばー
beaver
哺乳(ほにゅう)綱齧歯(げっし)目ビーバー科ビーバー属に含まれる動物の総称。この属Castorの仲間は水中生活に適応し、ウミダヌキ、カイリ(海狸)ともよばれる。ドイツ、フランス、ノルウェー、ロシア連邦のバイカル湖などに分布するヨーロッパビーバーC. fiberと、アラスカ、カナダ、アメリカ合衆国北部に分布するカナダビーバーC. canadensisの2種がある。両種は形態、生態がきわめて似ており、同一種とみなす学者もいる。フィンランドにはカナダビーバーが移入され、馴化(じゅんか)している。体長74センチメートル、尾長21~30センチメートル。齧歯類としては大形で、太く頑丈な体をもつ。目と耳は小さく、尾は幅広く水平方向に扁平(へんぺい)で、鱗(うろこ)に覆われる。後足の指の間には水かきが発達する。体色は栗(くり)色、赤褐色、黒褐色など多様で、南方産の個体ほど明色の傾向がある。毛は密生し、柔らかい。
低地の森林内の川や湖にすみ、おもに水中で生活する。地上を走るのは遅いが、泳ぎと潜水は巧みである。大きな川では川岸に巣穴を掘り、比較的小さい川では川の中に土、石、木を積んで頑丈な島を築き、ともに内側に木の皮などを敷いた巣室をつくる。どちらも出入口(普通二つ以上ある)は水面下にあけられ、外敵の侵入を防ぐ。天井と壁は防水性に優れ、天井には通気孔がある。さらにビーバーは、水位を一定に保つために、川近くの木をかじり倒して川床に立て、石、泥、藻などで固定し、枝などを積み重ねてダムを築く。ダムの長さは普通20~30メートル、ときには700メートルに及ぶ。かつて莫大(ばくだい)な数のビーバーが生息したアメリカ合衆国では、そのダムのおかげで多くの洪水を免れた。ビーバーの門歯は堅い木をかじるのに適しており、直径8~20センチメートルの木を短時間でかじり倒す。一つの巣穴にはつがいと性的に未成熟な子、または3世代からなる家族群ですむ。1~3月に水中で交尾し、約105日の妊娠期間ののち1~8子を産む。出生時の子は体毛を有し、門歯もみられる。雌親は地上では子を両前肢にのせて、後肢だけで歩いて運搬するといわれる。食物は樹皮、芽などである。冬には活動量が減少し、ダム内に蓄えた枝の樹皮を食べて過ごす。
ビーバーはかつてはユーラシアと北アメリカの北部に広く分布したが、良質の毛皮を求めての乱獲によって、イギリスなど多くの地域では絶滅した。現在は各地で保護され、個体数は増加しつつある。
[今泉吉晴]