ファランクス(読み)ふぁらんくす(英語表記)phalanx ギリシア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファランクス」の意味・わかりやすい解説

ファランクス
ふぁらんくす
phalanx ギリシア語

古代ギリシアにおける基本的な歩兵の戦闘隊形。ギリシア方陣、密集方陣と訳す。紀元前8世紀後半、重装歩兵の出現に伴い、従来の個人戦闘にかわって現れ、前7世紀後半以降、本格的なものになった。重装歩兵の長い横列を8列ほど重ねてつくられたファランクスは、弱点である側面と背面を騎兵に擁護され、恐るべき攻撃力を発揮した。前4世紀前半にエパミノンダスは、左翼の厚みを約50列にする斜方陣をくふうし、フィリッポス2世以後のマケドニアのファランクスは、16列ほどの厚みと機動力と戦士の長槍(やり)で長く無敵を誇った。ローマ人の戦闘隊形も、前4世紀初めまではファランクスであったと考えられる。

 なお、ファランクスということばは20世紀になって次の二つの名称に転用された。

(1)スペインの政党ファランヘ党Falange Españolaの名称。ファランへfalangeはギリシア語ファランクスphalanxのスペイン語表記である。同志党とも訳される。

(2)艦艇の対空近距離防空火器の英語名称。CIWS(シウス)(近接防御武器システム)の一種。CIWSは、対空ミサイルや中口径砲による防御を突破した敵のミサイルを2~9キロメートルの近距離で撃墜するために艦艇に搭載される小口径砲で、対空艦艇防御の最後のシステムである。最初に開発されたCIWSが、1980年にアメリカで実用化されたファランクスで、CIWSの役割にふさわしい名称である。世界的にもっとも多く用いられ、海上自衛隊でも採用されている。ハイテク技術の粋(すい)を集めた装置で、20ミリ6連機関砲からなり、発射速度は4500発/分である。

[清永昭次]

『ピーター・コノリー、L・E・ユンケル著、福井芳男・木村尚三郎監訳『世界の生活史25 ギリシア軍の歴史』(1989・東京書籍)』『「特集 CIWSの話」(『世界の艦船』1991年11月号・海人社)』

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百科事典マイペディア 「ファランクス」の意味・わかりやすい解説

ファランクス

古代ギリシアの盾(たて)・長槍を持った重装歩兵の密集隊形。陸戦部隊の中核テーバイスパルタのものが有名だが,特にマケドニアのフィリッポス2世が改良・強化したものをいい,アレクサンドロス大王の東征で活躍。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ファランクス」の解説

ファランクス
phalanx

古代ギリシアの長槍歩兵密集方陣
自営農民を中核とする重装歩兵の密集隊列で,前7世紀ごろのギリシアに始まり,ポリス盛期からローマの軍団にも取り入れられた。楯 (たて) と長槍とよろいで武装し,固くスクラムを組んだ数列ないし十数列の厚い隊形をもち,側面と後方は騎兵が護り,長槍の攻撃を特色とする。マケドニアのフィリッポス2世が用いて有名となった。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ファランクス」の解説

ファランクス
phalanx

密集隊形。古代のギリシアで行われた歩兵隊形で,重装歩兵を横長の長方形に密に並べて敵と戦う。エパメイノンダスフィリポス2世は,この隊形に独自の工夫を加えて新威力となし,それを制覇の具とした。

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世界大百科事典(旧版)内のファランクスの言及

【ウォレン】より

…また《ケンタッキーのわが家》もこの地で構想されたという。西郊にフーリエ主義者の理想郷〈ファランクスPhalanx〉の跡がある。【岡田 泰男】。…

【コミューン】より

…政治的コミューンは産業社会の登場によって生じた急激な社会変化と社会の階級的対立を,社会主義的原理によって変革しようとして考えられた。R.オーエンのニューハーモニー,フーリエ主義者のファランクス,E.カベのイカリアなどが現れた。現代の例ではイスラエルのキブツが挙げられよう。…

【ブルック・ファーム】より

…アメリカのトランセンデンタリズムの信奉者が1841年4月にボストン郊外のウェスト・ロクスベリーに開設した理想主義農場。のちC.フーリエの影響をうけて〈ファランクスPhalanx〉とも呼ばれた。指導者リプリーGeorge Ripley(1802‐80)の言葉を借りると,この事業の目的は〈頭と手の労働の間に現在よりも自然な統一を確保すること〉だったが,早くも46年には財政難から破局を迎えることになる。…

【重装歩兵】より

…彼らは重いブロンズづくりの甲冑(かつちゆう)をつけ,多くは騎馬で戦場におもむく。いざ敵に接すると馬から下りて,馬を従者に渡し,徒歩で仲間の戦士たちとびっしり盾を並べて密集隊形(ファランクスphalanx)を組み,長い突槍をふりかざし敵にあたっていった。これを後方から軽装兵が応援した。…

※「ファランクス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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