日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィックの法則」の意味・わかりやすい解説
フィックの法則
ふぃっくのほうそく
Fick's law
液体中における溶質の拡散に関する法則。1855年ドイツの生理学者であるフィックAdolf Eugen Fick(1829―1901)によって、食塩の溶解実験の際、熱伝導のフーリエの法則に倣って経験的に得られたもので、気相や固相内の拡散にも適用される。
[大竹伝雄]
フィックの第一法則
溶液中に濃度勾配(こうばい)があると、溶質が濃度の高いほうから低いほうへ移動して均一の濃度になろうとする。この現象が拡散であって、このときの拡散の速度を示したものがフィックの第一法則である。AとBが混合しているとき、拡散の方向に垂直な単位断面を通る成分Aのz方向への拡散速度JA(拡散流速ともいい、単位はmol/cm2・s)は、その場所の濃度勾配に比例するというもので、次式で表される。
JA=-DABdCA/dz
ここで、DABはB中のAの拡散係数cm2/s、CAは成分Aの濃度mol/cm3、zは拡散方向への距離cmであり、負号は濃度の高いほうから低いほうへ流れることを示すためである(dは常微分記号)。
[大竹伝雄]
フィックの第二法則
フィックの第一法則は定常状態の場合であるが、濃度が時間tとともに変化する非定常拡散現象は次式で表される。
これは拡散方程式であって、フィックの第二法則ともよばれている(∂は偏微分記号)。この式を適当な初期条件および境界条件のもとで解けば、経過時間ごとの濃度分布が明らかになる。
[大竹伝雄]