序曲(読み)ジョキョク(その他表記)overture 英語

デジタル大辞泉 「序曲」の意味・読み・例文・類語

じょ‐きょく【序曲】


オペラ・オラトリオバレエ音楽などの最初に演奏される器楽曲。主要部への導入の役割を果たす。
㋑19世紀以降、1楽章形式の独立した管弦楽曲ブラームスの「大学祝典序曲」など。
物事の始まりを示す事柄。「物語の序曲
[補説]書名別項。→序曲

じょきょく【序曲】[書名]

《原題The Preludeワーズワースによる自伝的長詩。1798年から1799年にかけて最初の作品「序曲1799」が成立。以後加筆修正され、1804年から1805年に「序曲1805」が完成。著者没後の1850年に刊行された。副題は「詩人の心の成長」。

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精選版 日本国語大辞典 「序曲」の意味・読み・例文・類語

じょ‐きょく【序曲】

  1. 〘 名詞 〙
  2. オペラオラトリオ、組曲などの最初に演奏され、全体への導入の役割を果たす楽曲。それだけで独立した演奏会用器楽曲としても発達した。代表的なものにブラームスの「大学祝典序曲」などがある。オーバーチュア。序楽。〔洋楽手引(1910)〕
  3. ( 比喩的に ) 事件・物語などの、はじまったばかりの部分。前ぶれ。
    1. [初出の実例]「ただの少年時代ではなく、青年期の前史であり序曲であった」(出典:二つの町(1946)〈荒正人〉)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「序曲」の意味・わかりやすい解説

序曲(音楽)
じょきょく
overture 英語
Ouvertüre ドイツ語
ouverture フランス語

オペラやバレエカンタータやオラトリオを導入するために冒頭に置く曲。それ自体完結している点で序奏とは異なる。また19世紀には、独立した管弦楽曲の題名にも使われた。

[寺本まり子]

序曲の成立

16世紀末の初期イタリア・オペラは、トッカータカンツォーナのような簡単な器楽アンサンブルで導入されたが、17世紀中葉のフランスで序曲という表示が初めて用いられ、リュリの貢献によってフランス風序曲が確立した。この型の序曲は、元来付点リズムを特徴とする華麗でゆっくりした部分に模倣様式の速いテンポの部分が続く2部分構成であったが、第1部に関連した緩徐部分が付加されて緩―急―緩の3部分構成が成立した。この序曲は17世紀の間ヨーロッパ各地で非常に好まれ、組曲にも適用された。しかし17世紀末になると、これとはまったく異なったイタリア風序曲が、A・スカルラッティを中心とするナポリ派のオペラに生まれた。シンフォニアsinfoniaとよばれたこの型の序曲は、和声的構造に特徴をもつ速いテンポの第1楽章、美しい旋律の緩徐楽章、舞曲的性格の速い第3楽章から成り立ち、フランスのものとは速度に関して逆の急―緩―急構成を示している。

[寺本まり子]

オペラ用序曲

この両方の型の序曲は18世紀前半まで並存したが、1760年以降交響曲やソナタの発展に伴い、フランス風序曲は衰退した。そしてイタリア風序曲からは第2楽章と第3楽章が消え、第1楽章が通例ソナタ形式で書かれるようになり、オペラ用序曲が成立した。さらにグルックの『アルケスティス』(1767)以来、序曲はオペラ自体の内容と関連づけられるようになり、たとえばモーツァルトの『ドン・ジョバンニ』(1787)や『魔笛』(1791)の序曲は、オペラの重要な音楽素材をあらかじめ引用している。19世紀になると、楽劇を構想したワーグナーは『ローエングリン』(1848)以降オペラ全体の導入楽曲としての序曲を排し、各幕の前に簡潔な前奏曲を置いた。ベルディにもみられるこの傾向は、19世紀中葉以降のイタリア・オペラの典型になった。

[寺本まり子]

単独形式の序曲

導入楽曲として作曲されたこれらの序曲に対して、とくにロマン派の作曲家は、ソナタ形式の単独楽章、または自由な前奏曲として創作した管弦楽曲を序曲と表示した。そのような曲例としては、メンデルスゾーンの序曲『真夏の夜の夢』(1826)やブラームスの『大学祝典序曲』(1880)などが有名である。

[寺本まり子]


序曲(ワーズワースの長編詩)
じょきょく
The Prelude, or Growth of a Poet's Mind

イギリスの詩人ワーズワースの自伝的長編詩。「詩人の心の成長」という副題をもつ。1799年ころ着手され1805年までにいちおう完成したが、その後再三加筆訂正され、初版が出版されたのは詩人没後の1850年7月であった。8000行余のこの作品が夫人によって『序曲』と題されたのは、生前詩人が構想していた「隠者」と題する人間、自然、社会を主題とする長編哲学詩三部作を念頭に置いたためである。フランス革命期の激動する社会と動揺する価値観に対して、自己の幼少期からの体験を回想しつつ、大自然と深く交感するところに人間の本来的な存在様式をみいだし、機械論的人間観や教育論を批判した。その確信に満ちた思想と精妙な心理的表現は19世紀後半から文学・思想・芸術に影響を及ぼし、ワーズワースの代表作として今日高く評価されている。

[岡 三郎]

『岡三郎訳『序曲』(1968・国文社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「序曲」の意味・わかりやすい解説

序曲 (じょきょく)
overture

オペラオラトリオ,また組曲などの冒頭におかれる曲で,導入曲の役割をもつ。また,単独の作品でこの名をもつものもある。

 モンテベルディの《オルフェオ》(1607)に付された〈トッカータ〉の名の短い序曲はその最初期の例の一つである。その後,オペラの発展とともに入念な構成と様式をもつようになった。17世紀後半,J.B.リュリは,緩-急-緩の3部分からなり,とくに緩の部分には符点音符を特徴とする荘重な書法を確立した。彼のバレエ曲《アルシディアーヌ》(1658)に初めて用いられたこの様式は,〈フランス風序曲〉とも呼ばれ,バロック時代を通して,序曲の一つの典型ともなった。〈管弦楽組曲〉と通称されるJ.S.バッハの4曲の組曲はいずれも荘重なフランス風序曲をもつことで知られる。17世紀末に,この書法とは対照的な急-緩-急の部分からなる様式の〈イタリア風序曲〉が登場した。ナポリ楽派の始祖ともされるA.スカルラッティが取り入れたこの様式は軽快で,ホモフォニックな書法を特徴とし,シンフォニアとも呼ばれて,やがて18世紀の交響曲やソナタの形成に大きな影響力をもった。

 古典派に入ると序曲とオペラ本体との有機的な結びつきが強調され,しばしば内容の雰囲気を予示する役割を担った。また,19世紀フランスのオペレッタでは,オペラのアリアの旋律をつなぎ合わせたポプリ形式の序曲も生まれている。W.R.ワーグナーは《ローエングリン》(1848)以後の楽劇において,序曲に代わり,各幕の前奏という意味で〈フォアシュピールVorspiel(前奏曲)〉の語を採用している。

 そのほか,劇音楽や祝祭用,または演奏会目的でこの名をもつ作品が書かれており,ベートーベンの《エグモント》序曲,《命名祝日》序曲,メンデルスゾーンの《真夏の夜の夢》序曲,ブラームスの《大学祝典序曲》,チャイコフスキーの幻想的序曲《ロメオとジュリエット》,ドボルジャークの《謝肉祭》を含む序曲三部作が有名である。
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序曲 (じょきょく)
The Prelude

イギリス・ロマン派の詩人ワーズワースの自伝的叙事詩。1799年に着手,1805年に完成。終生にわたって改稿を続け,50年に死後出版。副題にある〈詩人の精神の成長〉が,少年時代,ケンブリッジ時代,書物との出会い,アルプス紀行,ロンドン生活,フランス体験とその後の心境などに即してたどられる。ただし自伝的とはいっても,アネット・バロンとの交情の経緯は欠落している。全巻の中心をなすのは,詩人の精神と自然との交感の記録である。ワーズワースは単に自然美をめでるのではなく,子ども時代の〈恐怖〉体験が示すように,自然によって畏怖の念を喚起される。また記憶の中に蓄積され,後年,危機に直面した精神の回復力となる〈決定的瞬間〉が,フランス体験を経て危機に瀕したワーズワースの想像力の回復を可能にする。ブランク・バースの詩形を用い,コールリジに呼びかける体裁をとって書かれたこの詩は,壮大な未完の哲学詩《隠遁者The Recluse》の〈序曲〉となるはずであったが,それ自体独立した一編の叙事詩であり,心理的洞察の深さにおいて画期的な作品といえる。
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百科事典マイペディア 「序曲」の意味・わかりやすい解説

序曲【じょきょく】

オペラ,オラトリオ,バレエ音楽などの初めに演奏される序奏の管弦楽曲。overture。17世紀のベネチア,ナポリでのオペラの序曲は定型化されフランス風序曲,イタリア風序曲(シンフォニア)などとなる。18−19世紀の序曲は単なる序奏を越えてオペラ全体の内容を暗示するようになり,独立して演奏会で演奏することも可能な形をとった。メンデルスゾーンの《フィンガルの洞窟(どうくつ)》,ブラームスの《大学祝典序曲》,チャイコフスキーの《1812年序曲》などの19世紀の管弦楽曲は演奏会序曲と呼ばれ,完全に独立した曲である。→前奏曲
→関連項目スカルラッティ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「序曲」の意味・わかりやすい解説

序曲
じょきょく
overture

オペラ,オラトリオ,バレエ,組曲などの初めに導入として演奏される器楽曲。最も古いタイプは「カンツォーナ風序曲」で,17世紀ベネチア・オペラで定型化され,緩 (2拍子系) -急 (3拍子系) の2部分構造をもつ。さらに発展して J.リュリの「フランス風序曲」が生れ,オペラだけではなく組曲にも愛用された。続いて A.スカルラッティが「イタリア風序曲」で,急-緩-急の3部分構造を創始。古典派のシンフォニーを生む母体となった。古典派になると,序曲はソナタ形式を採用。オペラの序曲は,その劇内容を暗示する役割を果すようになる。 19世紀には,しばしば独立した演奏会用序曲が作曲され,F.メンデルスゾーンの『フィンガルの洞窟』,J.ブラームスの『大学祝典序曲』などの名曲が生れた。ロマン派の時代が進み,R.ワーグナーの楽劇では前奏曲と呼ばれ,ソナタ形式を脱し,ただちに楽劇の最初の場面へと導く自由な形式となった。

序曲
じょきょく
The Prelude

イギリスの詩人 W.ワーズワスの長編詩。 14巻から成る。哲学詩『隠栖』 The Recluseの一部として計画され,1799年に執筆開始,1805年に完成。その後 35年にわたって加筆訂正がなされ,詩人の死後,50年7月に出版された。彼自身はこの作品を「私の前半生についての詩」「私自身の精神の成長に関する詩」と呼び,『序曲』という表題は未亡人がつけたもの。幼少年期,ホークスヘッドのグラマー・スクール時代,ケンブリッジ大学時代,ロンドン滞在,アルプス越えの徒歩旅行,革命さなかのフランス生活などの経験が回想されるとともに,その精神史的な意味が追求されている。 05年の完成当時の原稿が 1926年 E.セリンコート教授によって校訂出版されて,若き詩人の姿が一層明瞭にうかがえるようになった。

序曲
じょきょく

声明 (しょうみょう) 用語。天台宗大原流の声明で,拍子をとらず自由なリズムで唱える曲をいう。定曲 (ていきょく) に対する。声明の大部分は序曲物であり,特にテンポがゆるやかで長く声を引くものに引声 (いんぜい) や長音 (ちょういん) と呼ばれる曲があり,比較的テンポの速いものに短声 (たんぜい) と切音 (きりごえ) がある。

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普及版 字通 「序曲」の読み・字形・画数・意味

【序曲】じよきよく

前奏。

字通「序」の項目を見る

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音楽用語ダス 「序曲」の解説

序曲

オペラやオラトリオなどのはじめに演奏される楽曲。

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世界大百科事典(旧版)内の序曲の言及

【声明】より

…これは〈甲・乙〉〈上・中・下〉〈初重(しよじゆう)・二重三重〉などの用語で音域,旋律形態を指示するもので,中世以後のいわゆる語り物音楽の旋律構造の母胎となっている。(2)リズム 天台声明ではリズムは不等拍のものを〈序曲〉,等拍のものを〈定曲(ていきよく)〉とし,この両様や中間的なものを,〈俱曲(ぐきよく)〉〈破曲(はきよく)〉と称する。定曲では拍子が4種類に大別され,その中に日本音楽ではたいへん珍しい3拍子が含まれているのが注目される。…

【前奏曲】より

…(3)礼拝などの前に奏される短い楽曲で,コラール前奏曲(コラール)などはその例である。(4)序曲の一種。R.ワーグナーは《ローエングリン》(1848)以降の楽劇において,各幕への導入曲という意味でフォアシュピールの語を用いた。…

【ワーズワース】より

…04年2月に書き上げられた《霊魂不滅の賦》は《ティンターン・アベー》に似て,〈観念主義の深淵〉としてとらえられる子ども時代の自然との合一に伴う栄光の喪失をいたずらに嘆かず,子ども時代の記憶と成長への自覚との止揚に到達している。〈偉大なる10年間〉は自伝的叙事詩《序曲》の完成(1805)で飾られたが,この詩は終生にわたって改稿が続けられた。《序曲》のテーマは《逍遥》(1814)にも受け継がれた。…

※「序曲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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