デジタル大辞泉 「序曲」の意味・読み・例文・類語
じょ‐きょく【序曲】
㋐オペラ・オラトリオ・バレエ音楽などの最初に演奏される器楽曲。主要部への導入の役割を果たす。
㋑19世紀以降、1楽章形式の独立した管弦楽曲。ブラームスの「大学祝典序曲」など。
2 物事の始まりを示す事柄。「物語の
[補説]書名別項。→序曲
オペラやバレエ、カンタータやオラトリオを導入するために冒頭に置く曲。それ自体完結している点で序奏とは異なる。また19世紀には、独立した管弦楽曲の題名にも使われた。
[寺本まり子]
16世紀末の初期イタリア・オペラは、トッカータやカンツォーナのような簡単な器楽アンサンブルで導入されたが、17世紀中葉のフランスで序曲という表示が初めて用いられ、リュリの貢献によってフランス風序曲が確立した。この型の序曲は、元来付点リズムを特徴とする華麗でゆっくりした部分に模倣様式の速いテンポの部分が続く2部分構成であったが、第1部に関連した緩徐部分が付加されて緩―急―緩の3部分構成が成立した。この序曲は17世紀の間ヨーロッパ各地で非常に好まれ、組曲にも適用された。しかし17世紀末になると、これとはまったく異なったイタリア風序曲が、A・スカルラッティを中心とするナポリ派のオペラに生まれた。シンフォニアsinfoniaとよばれたこの型の序曲は、和声的構造に特徴をもつ速いテンポの第1楽章、美しい旋律の緩徐楽章、舞曲的性格の速い第3楽章から成り立ち、フランスのものとは速度に関して逆の急―緩―急構成を示している。
[寺本まり子]
この両方の型の序曲は18世紀前半まで並存したが、1760年以降交響曲やソナタの発展に伴い、フランス風序曲は衰退した。そしてイタリア風序曲からは第2楽章と第3楽章が消え、第1楽章が通例ソナタ形式で書かれるようになり、オペラ用序曲が成立した。さらにグルックの『アルケスティス』(1767)以来、序曲はオペラ自体の内容と関連づけられるようになり、たとえばモーツァルトの『ドン・ジョバンニ』(1787)や『魔笛』(1791)の序曲は、オペラの重要な音楽素材をあらかじめ引用している。19世紀になると、楽劇を構想したワーグナーは『ローエングリン』(1848)以降オペラ全体の導入楽曲としての序曲を排し、各幕の前に簡潔な前奏曲を置いた。ベルディにもみられるこの傾向は、19世紀中葉以降のイタリア・オペラの典型になった。
[寺本まり子]
導入楽曲として作曲されたこれらの序曲に対して、とくにロマン派の作曲家は、ソナタ形式の単独楽章、または自由な前奏曲として創作した管弦楽曲を序曲と表示した。そのような曲例としては、メンデルスゾーンの序曲『真夏の夜の夢』(1826)やブラームスの『大学祝典序曲』(1880)などが有名である。
[寺本まり子]
イギリスの詩人ワーズワースの自伝的長編詩。「詩人の心の成長」という副題をもつ。1799年ころ着手され1805年までにいちおう完成したが、その後再三加筆訂正され、初版が出版されたのは詩人没後の1850年7月であった。8000行余のこの作品が夫人によって『序曲』と題されたのは、生前詩人が構想していた「隠者」と題する人間、自然、社会を主題とする長編哲学詩三部作を念頭に置いたためである。フランス革命期の激動する社会と動揺する価値観に対して、自己の幼少期からの体験を回想しつつ、大自然と深く交感するところに人間の本来的な存在様式をみいだし、機械論的人間観や教育論を批判した。その確信に満ちた思想と精妙な心理的表現は19世紀後半から文学・思想・芸術に影響を及ぼし、ワーズワースの代表作として今日高く評価されている。
[岡 三郎]
『岡三郎訳『序曲』(1968・国文社)』
オペラやオラトリオ,また組曲などの冒頭におかれる曲で,導入曲の役割をもつ。また,単独の作品でこの名をもつものもある。
モンテベルディの《オルフェオ》(1607)に付された〈トッカータ〉の名の短い序曲はその最初期の例の一つである。その後,オペラの発展とともに入念な構成と様式をもつようになった。17世紀後半,J.B.リュリは,緩-急-緩の3部分からなり,とくに緩の部分には符点音符を特徴とする荘重な書法を確立した。彼のバレエ曲《アルシディアーヌ》(1658)に初めて用いられたこの様式は,〈フランス風序曲〉とも呼ばれ,バロック時代を通して,序曲の一つの典型ともなった。〈管弦楽組曲〉と通称されるJ.S.バッハの4曲の組曲はいずれも荘重なフランス風序曲をもつことで知られる。17世紀末に,この書法とは対照的な急-緩-急の部分からなる様式の〈イタリア風序曲〉が登場した。ナポリ楽派の始祖ともされるA.スカルラッティが取り入れたこの様式は軽快で,ホモフォニックな書法を特徴とし,シンフォニアとも呼ばれて,やがて18世紀の交響曲やソナタの形成に大きな影響力をもった。
古典派に入ると序曲とオペラ本体との有機的な結びつきが強調され,しばしば内容の雰囲気を予示する役割を担った。また,19世紀フランスのオペレッタでは,オペラのアリアの旋律をつなぎ合わせたポプリ形式の序曲も生まれている。W.R.ワーグナーは《ローエングリン》(1848)以後の楽劇において,序曲に代わり,各幕の前奏という意味で〈フォアシュピールVorspiel(前奏曲)〉の語を採用している。
そのほか,劇音楽や祝祭用,または演奏会目的でこの名をもつ作品が書かれており,ベートーベンの《エグモント》序曲,《命名祝日》序曲,メンデルスゾーンの《真夏の夜の夢》序曲,ブラームスの《大学祝典序曲》,チャイコフスキーの幻想的序曲《ロメオとジュリエット》,ドボルジャークの《謝肉祭》を含む序曲三部作が有名である。
執筆者:西原 稔
イギリス・ロマン派の詩人ワーズワースの自伝的叙事詩。1799年に着手,1805年に完成。終生にわたって改稿を続け,50年に死後出版。副題にある〈詩人の精神の成長〉が,少年時代,ケンブリッジ時代,書物との出会い,アルプス紀行,ロンドン生活,フランス体験とその後の心境などに即してたどられる。ただし自伝的とはいっても,アネット・バロンとの交情の経緯は欠落している。全巻の中心をなすのは,詩人の精神と自然との交感の記録である。ワーズワースは単に自然美をめでるのではなく,子ども時代の〈恐怖〉体験が示すように,自然によって畏怖の念を喚起される。また記憶の中に蓄積され,後年,危機に直面した精神の回復力となる〈決定的瞬間〉が,フランス体験を経て危機に瀕したワーズワースの想像力の回復を可能にする。ブランク・バースの詩形を用い,コールリジに呼びかける体裁をとって書かれたこの詩は,壮大な未完の哲学詩《隠遁者The Recluse》の〈序曲〉となるはずであったが,それ自体独立した一編の叙事詩であり,心理的洞察の深さにおいて画期的な作品といえる。
執筆者:山内 久明
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…これは〈甲・乙〉〈上・中・下〉〈初重(しよじゆう)・二重・三重〉などの用語で音域,旋律形態を指示するもので,中世以後のいわゆる語り物音楽の旋律構造の母胎となっている。(2)リズム 天台声明ではリズムは不等拍のものを〈序曲〉,等拍のものを〈定曲(ていきよく)〉とし,この両様や中間的なものを,〈俱曲(ぐきよく)〉〈破曲(はきよく)〉と称する。定曲では拍子が4種類に大別され,その中に日本音楽ではたいへん珍しい3拍子が含まれているのが注目される。…
…(3)礼拝などの前に奏される短い楽曲で,コラール前奏曲(コラール)などはその例である。(4)序曲の一種。R.ワーグナーは《ローエングリン》(1848)以降の楽劇において,各幕への導入曲という意味でフォアシュピールの語を用いた。…
…04年2月に書き上げられた《霊魂不滅の賦》は《ティンターン・アベー》に似て,〈観念主義の深淵〉としてとらえられる子ども時代の自然との合一に伴う栄光の喪失をいたずらに嘆かず,子ども時代の記憶と成長への自覚との止揚に到達している。〈偉大なる10年間〉は自伝的叙事詩《序曲》の完成(1805)で飾られたが,この詩は終生にわたって改稿が続けられた。《序曲》のテーマは《逍遥》(1814)にも受け継がれた。…
※「序曲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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