フォン族 (フォンぞく)
Fon
西アフリカ,ベニン人民共和国の南部に居住する部族。人口約100万で,国の政治,経済,行政をリードする支配的な部族である。フォン語はエウェ語の方言で,言語の系統では,ヨルバ語,アカン語などと同じクワ語群に属する。フォン族は17世紀前半に内陸のアボメーを中心にアボメー王国を形成し,それがのちにダホメー王国に発展したことで知られている。生業は,ヤムイモ,雑穀,トウモロコシ,キャッサバなどの作物を栽培する農業である。交易で繁栄したダホメー王国の住民であり,現在も活発に商業活動に従事し,市(いち)もよく発達している。フォン族のあいだにはボードゥン(中米ハイチで信仰されるブードゥーの起源)と総称される神々があるが,これは神格化された祖先であり,ふつうの祖先とは区別される。このパンテオンの頂点には創造神リサ・マウが位置し,その配下に天,地,雨などを支配する神々が連なった。パンテオンは王権や王国の体制などの社会の階層分化を支えるイデオロギーの役目を果たすものである。
執筆者:赤阪 賢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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フォン族
フォンぞく
Fon
ダオメー族 Dahomeyともいう。ベナン (旧ダオメー) の南部およびナイジェリアの住民。言語はニジェール=コンゴ語派のクワ諸語に属する。人口約 300万と推定される。経済は伝統的に農業に依存し,とうもろこし,キャッサバ,ヤムいもなどを主食とし,油やしがおもな換金作物である。耕作は男性,植付けは男性と女性,手入れと刈取りは女性の仕事とされる。農作業や屋根ふきをする男子成人組の互助組織があり,ほかに各村落には首長の指導する専門的な狩人集団がある。工芸にもたけており金工,織布,土器製作を行い,またコヤスガイが貨幣として使われる。一夫多妻の複婚家族が社会の基本単位で,夫の住居,その兄弟や成人した息子たちの住居,祖先の祠,納屋などが並ぶ屋敷の中で,それぞれ妻たちは自分と子供の住居をもつ。父系リニージは,一般に近接して屋敷を構え,男の最年長者がその集団の首長となる。以前は父系氏族が強大であったが,近年になって氏族組織は崩壊した。しかし祖先崇拝が依然として主要な機能を果しており,自然神や人格神の信仰,呪術や複雑な占いなどがある。世襲制の首長を戴いた村落組織が政治の基本単位である。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内のフォン族の言及
【太陽】より
… 日食や月食が,太陽や月が病気になったり,気絶したり,死んだために生ずるという民族は,スマトラのミナンカバウ族,アフリカのコイ・コイン,南アメリカのアラチカノ族などの例がある。日食や月食を夫婦関係で説明する例は,太平洋のタヒチ諸島,ドイツのオーバーファルツの農民などにあるが,西アフリカのフォン族もその一つである。フォン神話によれば,原母ナナ・ブルクはマウとリサの双生子を生んだ。…
【ブードゥー】より
…ハイチにみられる民間信仰で,キューバのサンテリーアやブラジルのマクンバ,カンドンブレとともに,アフリカの原始宗教とカトリックとが混交した宗教。フランスの植民地時代に西アフリカのダホメー(現,ベニン)から奴隷としてキューバに連れて来られたフォン族がもたらしたものであるが,彼らはその後支配者の強制するキリスト教と父祖伝来のブードゥー教とを巧みに融和させ,これを部族宗教から民族宗教に発展させた。1791年の奴隷反乱の際ブードゥーは黒人たちを決起させ,6年後世界で初めて黒人共和国ハイチが成立した。…
※「フォン族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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