アワ,キビ,ヒエなどの総称で,英語のミレットmilletに対応する語。すでに《日葡辞書》(1603)にも〈Zacocuザコク(雑穀)〉として掲出されている。雑穀に含まれる穀類の種類は,定義をどうとるかによって異なってくるが,ここでは雑穀を小さな頴果(1粒の種子を含む果実)をつけ,おもにサバンナ的な生態的条件の地域で起源し,夏作物として栽培される一群のイネ科穀類と定義しておく。
世界における雑穀の主要な起源地域はアジアとアフリカで,この二つの地域ではそれぞれ独自の雑穀が成立した。アジア起源の代表的な雑穀はアワSetaria italica,キビPanicum miliaceum,ヒエEchinochloa utilis,インドビエE.frumentacea,ハトムギCoix lacryma-jobi var.mayuenの5種であり,アフリカ起源のものとしては,モロコシ(ソルガム)Sorghum bicolor,シコクビエEleusine coracana,トウジンビエPennisetum americanumがあげられる。以上の雑穀は広い地域で栽培されているが,現在でも特定の地域にだけ栽培が局限されている雑穀がある。インドのコダミレットPaspalum scrobiculatumやライシャンDigitaria cruciata,エチオピア高原のテフEragrostis abyssinica,西アフリカのフォニオDigitaria exilisがその好例である。
雑穀は古くからその有用性が高く評価されてきた穀類である。その理由はまず第1に,不良の土地でもよく生育し,干ばつにも強くて,病虫害も少なく,穀粒は小さいが安定した収穫が得られるという作物特性があげられる。第2に,穂のまま束ねて貯蔵しておくと,害虫もつかず長期間にわたり保存がきくので,救荒作物としての役割が大きいことである。第3に,伝統的な主食原料として,粉にしたり,碾(ひ)き割ったり,あるいは穀粒のままで調理するなど,多様な利用法が確立されていることである。第4に,酒の原料としてしばしば用いられていることである。またとくに東アジアや東南アジア大陸部においては,畑地や焼畑農業の輪作体系の中に組み込まれて栽培されており,その中で重要な役割を果たしてきたこともあげられる。
アジア起源のキビやアワは,日本においては今や山村や僻村(へきそん)で遺存的にしか栽培されていない雑穀である。しかし最近までわれわれの食生活の中で重要な役割を果たしてきた穀類で,東アジアとくに中国黄河流域の文明をはぐくんだ原動力は,キビとアワであったといわれている。キビとアワは,ヨーロッパでも新石器時代の遺跡から発掘されており,ユーラシア大陸全域にわたって古くから栽培され,重要な穀類であった。とくにキビはヨーロッパや中東地方で広く栽培され,各地に伝統的な料理が伝えられている。
アフリカ起源の雑穀のうち,モロコシはサハラ砂漠の南縁に沿ったかなり広い地域で栽培化されたもので,今なおこの大陸では主食料としての地位を失っていない。アフリカから紀元前2000年ころインド亜大陸に伝播し,とくにアジア東北部でコーリャンと呼ばれる特殊な品種群が成立している。シコクビエはエチオピア高原からウガンダにかけての高原に起源をもつ雑穀で,モロコシと同じく古い時代にインドに伝播した。ヒマラヤ山麓では主要な穀類の一つとなっており,そこからさらに中国南部を経てはるばる日本にまでも,その栽培が伝えられた歴史をもっている。
→焼畑
執筆者:阪本 寧男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
日本では米、ムギ、オオムギを主穀とよび、それ以外の穀物を雑穀と総称している。雑穀は主穀に比べて食糧としての重要性が低く、生産量も少ない。しかし、この区別は国によって異なり、たとえばアメリカでは、トウモロコシは生産量が多く主穀として扱われ、米(イネ)は雑穀に含まれる。日本における雑穀の種類には、イネ科のライムギ、エンバク、トウモロコシ、アワ、ヒエ、キビ、モロコシ、シコクビエ、ハトムギなどと、タデ科のソバ、ヒユ科のセンニンコクなどがある。さらにマメ類も雑穀に含めることがあり、日本ではダイズ、インゲンマメ、アズキ、ササゲ、エンドウ、ラッカセイなどがある。雑穀は、従来は主食の補助や代用として利用されたが、主穀の供給が十分ある現在では、主として飼料や工業原料、あるいは加工食品の原料として利用されている。また、日本では、アワ、ヒエ、キビ、シコクビエなど生産力が低く利用価値も低い雑穀はしだいに需要が減り、ほとんど栽培されなくなってきている。
[星川清親]
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
米麦以外の粟・黍(きび)・稗(ひえ)・蕎麦・豆類・胡麻などの作物。五穀以外の穀物一般を意味する場合もある。歴史的に貢租の対象外とされ,農民の自給食料あるいは救荒作物として栽培された。栽培はおもに畑地や焼畑で行われた。とくに山間地では重要な作物で,時代をさかのぼるにつれその比重も高まるが,明治30年代以降は急速に作付面積が減少した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…農業総産出額(貨幣価値の変化を考慮しない名目の実額)は,1960年の1.91兆円から70年4.66兆円,82年10.7兆円と増大しており,1980年を100とする農業生産指数をとってみると,1960→70→82の各年で,全農産物総合が76.9→96.7→104.0,耕種総合(米麦や野菜,果実など)が105.0→107.9→104.7,畜産総合が26.9→73.2→103.0のように増大している。耕種総合の伸びが停滞しているのは,米や,とくに麦類,いも類,豆類,雑穀類などの生産が減退しているためで,野菜や果実の生産はこの間に大幅に伸長している。 農業生産は増大してきたが,しかし,農業の国民経済ないし全産業中に占める地位は,この間に一貫して低下を続けている。…
※「雑穀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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